マツド・サイエンス研究所

オーディオ趣味への泥沼

話の発端は、この春、中学にあがった娘が英語の勉強のためにリビングで使っていたCDラジカセを自分の部屋に持って行くと言い出したことだ。以前「自作スピーカー」の記事で紹介したミニコンポは、とっくの昔に故障し廃棄されていた。(そのメーカーの製品はXXXタイマーとやらが付いて居て保証期間が切れると直ぐ故障すると言う噂があったが、本当だったようだ。)

普段、リビング兼ダイニング兼キッチンに居る妻が、CDラジカセが無くなると「音楽が聞けなくなる」と、こぼしたので何とかすることにした。

押し入れを探ると独身時代に使っていたBOSE101小型スピーカーが出て来た。リビングにはDVDプレーヤーがあり、これで音楽CDも再生できる。後はオーディオ・アンプがあれば、DVDプレーヤーで再生した音楽CDの音をBOSEスピーカーで聞くことができる。

この際だからと、アンプを作ることにした。

アンプを自作すると言っても、自分用ではないし、その上、所詮101スピーカー用のアンプだから、そんなに力を入れる気は無い。

最初は、秋月で「TA7252」と言うICを使ったアンプキットを買って来て、それでごまかそうとした。しかし、実際に作って試聴すると、音が小さい。小さいだけでなく、何か物足りない。主たるユーザー候補である妻も「いまいち、パンチが足りない」と言った。

小学五年生の息子は、意味が分らず「ちゃんと音楽が聞こえるじゃないか。パンチがあるとか無いとか、どういう意味?」と言った。そりゃ、音がして音楽が聞こえるのは確かなのだが、鑑賞に耐えるレベルじゃ無いんだよ、と口で説明するのも面倒なので、息子を私の部屋に連れて行き、以前「自作スピーカー」の記事で紹介した P-610 のメインシステムで、全く同じCDを聴かせた。

息子は目を丸くして、「意味が分った。『パンチがある』って、どう言うことか分った」と言った。(いかんなあ、息子にもオーディオマニア病が伝染ってしまう)

さて、「音にパンチが無い」原因は、本当にアンプか、それともスピーカーか? ちゃんと原因を追求してみよう。

いくら、超小型とは言え、BOSEのスピーカーなんだから、もう少しマシな音がしそうなもんだろうと、メインシステムのアンプに接続してみた。

このアンプ、20年近く前のものだが、95W+95W(スピーカー4Ω時)の出力だから、101相手には十分だろう。

確かに101から聞こえてくる音は、TA7252でドライブした時よりは、ずっと良い。でも、P-610 に比べると、低音も足りないし、高音も延び切っていない。中音も何か透き通っていないような気がする。

まあ、11.5 センチのユニットを無理矢理、超小型の箱に押し込んだスピーカーだから、こんなものかと自分自身を納得させる。

逆に、TA7252で P-610 をドライブしてみたら、やはり良い音がしない。それでも101の時より、ずっとマシな気がするのは気のせいだろうか?

とりあえず、101スピーカーでも、アンプさえ良くすれば、何とか鑑賞に耐える音が出せることが分って、アンプを改良しようとする。

水城さんに聞いたところ、「最近カマデンのD級アンプキットが評判らしい」と言う情報を得た。

「D級アンプ」と言うと、要は、MOS FET みたいなので、スイッチングしているだよな。スイッチング制御は、電源とかモーターの制御では高効率で良いんだが、果たして、オーディオアンプとして、まともな音がするのかと訝る反面、全くの聞いたことも無いので興味もある。

ネットで調べたところ、当該のキットはTA2020と言うICを使った20W+20W(スピーカー4Ω時)のアンプらしい。ICの名前がさっきのTA7252と似ているが、全くの無関係らしい。若松で売っていることが分り、秋葉原へ行く。

若松の店頭で、TA2020キットで小型スピーカーを鳴らしていた。聴いてみると、それなりに良い音がする。少なくとも101よりは低音がはっきりしている。

早速、購入し、一気に作る。説明書によるとアンプの効率は85%だと言う。オーディオアンプとは思えないほどの高効率だ。電源は12V2Aが推奨だが、手持ちでは12V300mAしかなく、取り敢えずは、これで試聴してみることとした。

音源用にDVDプレーヤー、スピーカーは101を接続して、CDを鳴らしたら、驚いた。

吃驚するぐらい音が良い。TA7252とは比べ物にならないことは予想していたのだが、メインシステムのアンプでドライブするより音が良い。公称出力は95Wから20Wに落ちているのだが、むしろパワーアップしていると思える低音が利き、高音も切れが良い。

これは、「何とか鑑賞に耐える音が出せる」程度ではなく、ずっと良くなっているぞ。それよりBOSE101は購入後20年になるのだが、こんなに良い音がするとは今まで知らなかった。101専用アンプよりも良い音だ。アンプで、これほど音が変わるとは思わなかった。今まで、アンプを甘く見過ぎていたかなあ?

このD級アンプで、P-610 をドライブしたら、どうなるか気になり出した。早速、接続して試聴。確かに良くなったが、101の時のほど大きな差は無い。

試聴した結果、音の良い順に並べてみる。本当は、主観は入らないように目隠し試験をしなきゃいけないが、面倒なので、そこまではやらない。(TA7252は、余りにも音がプアなので、除外している)

(1)TA2020アンプ+ P-610 スピーカー

(2)旧式95Wアンプ+ P-610 スピーカー

(3)TA2020アンプ+BOSE101スピーカー

(4)旧式95Wアンプ+BOSE101スピーカー

気になったのが、同じスピーカーを使った同士のアンプの違いによる音の影響だ。(1)と(2)の差は小さいが、(3)と(4)の差は大きい。

どうやら、BOSE101は「重い」スピーカーなので、アンプの駆動力違いによる影響が出やすく、逆に P-610 は「軽い」スピーカーなので、アンプの駆動力の影響が少ないようだ。

ここで、スピーカーの「重い」「軽い」とは、スピーカー全体の質量を示しているのではない。全体質量なら、P-610 の方が遥かに重い。

そうではなく、スピーカーの中でコーンやコイル等の可動部が動きにくいか動きやすいかで「重い」「軽い」と言う表現を使った。

コーンやコイル等の可動部の質量が軽い程「軽い」スピーカーに、可動部の質量が重い程「重い」スピーカーになるのは当然だが、可動部を支えるダンパーの材質・強度にも左右される。それ以上に、影響が大きいのが、箱の容量だ。コーンの動きにより箱の内部気圧が変化して反発する力が原因となる。そのため、一般的に箱の容量が大きいほど「軽い」スピーカーに、容量が小さいほど「重い」スピーカーになる。その他、バスレフやホーン等の共鳴効果やユニットの磁気回路等も、スピーカーの「重い」「軽い」に影響する。一般的に「軽い」スピーカーは効率が高く、「重い」スピーカーは効率が低くなる。

P-610 を使った自作スピーカーは、徹底的に「軽く高効率」を狙った設計になっている。そもそも、P-610 ユニット自体が真空管アンプ全盛時代に作られたために「軽い」設計になっている(真空管アンプは、半導体アンプに比べて出力が低い場合が多い)。この P-610 ユニットの特性を最大限に引き出そうと大きめのバスレフの箱に入れ、ツィーターも高効率のユニットにし、ネットワークも効率を下げる要因を排除した回路にしている。

その結果、P-610 自作スピーカーは、比較的プアなアンプでも良い音が出る、言い方を変えるとアンプの駆動力の影響が少ないスピーカーになった。逆にBOSE101は重いスピーカーの典型なので、アンプの駆動力の影響がもろに出る結果となったのだ。

ところで、私は今まで単純に「アンプの駆動力∝アンプの最大出力」だと思って居たのだが、どうやら間違って居たようだ。何十万もする高級アンプは、最大出力も何百Wもある。しかし、一般家庭では最大出力は10Wもあれば十分で(もちろんスピーカーの効率にもよる)、それ以上出すと近所迷惑になりかねない。にも拘ず、高級アンプの最大出力が大きいのは、実際に10W程度で聴く時でも、「重いスピーカー」にも負けず、十分に駆動するために終段のトランジスタもしくはFETの特性に十分な余裕を持たせるものと信じて居た。

ところが、今回のD級アンプで、この認識が誤って居たことに気付いた。旧式の95Wアンプよりも、20WのD級のアンプの方が駆動力がある。

少なくともD級アンプに関する限り、「最大出力」と「駆動力」は、切り離して考えることができそうだ。(アナログ式のアンプも切り離して考えることができるのだろうか?)

考えてみれば、D級アンプの終段は、超高速・極低内部抵抗のスイッチング素子なんだから、終段の特性もへったくれも無い。だから、実際に使用する出力に対して最大出力を無用に大きくする必要は無いんだな。

誤解してもらっては困るのだが、私は、自作スピーカーを徹底的に「軽く高効率」に設計したが、スピーカーは何が何でも「軽く高効率」にすれば良いというものではない。「重く低効率」なスピーカーを強力な駆動力を持つアンプでドライブするのもありだ。要は、オーディオは音が良ければ何でもありなのだ。特に「軽く高効率」なスピーカーは低音を出すのが難しいので、低音特性の良い「重く低効率」なスピーカーをハイパワーアンプで鳴らすのも良いだろう。

私が「軽く高効率」なスピーカーを選んだ理由は、当時(17・8年前)は、「重く低効率」なスピーカー全盛時代で、その流行に反したかった事と、ハイパワーアンプが高価で重く、その上、効率が悪かったからだ。当時の高級ハイパワーアンプは、ン十万円もした。その上、特に高級とされるA級アンプは非常識なくらい効率が悪く、電気ストーブ並の消費電力を食う。

私は、どうしても、そんな電気の無駄遣いの野蛮なやり方が好きになれなかったので、「軽く高効率」なスピーカーと中級程度のアンプの組み合わせを選んだのだ。

だが、今回、D級アンプを作って、聴いて考えが変わった。最大出力が大きくなくても駆動力に優れ、その上、消費電力も少ないアンプが安く手に入るのなら話は別だ。

「夢のバックロードホーン」を作る時には、その前にン十万円もする高級アンプを買うか作る必要があると思って居たが、D級アンプで何とかなるだろう。

それ以前に、気になることがある。

BOSE101をしまって居た(そして、野尻さんに進呈した予備の P-610 をしまって居た)同じ押し入れにJBLのコアアキシャル2ウェイ・ユニットが眠って居るのだ。カーステレオ用のユニットだから、ホームユース用のJBL程には評判は良くないのだが、腐ってもJBLである。その上、購入価格は我が家のスピーカーの中で最も高価だ。そして、このユニット、典型的に「重く低効率」なユニットなのだ。今まで、適当なハイパワーアンプが無かったから、気にして居なかったが、今回作ったD級アンプならドライブできそうだぞ。ホームセンターでサブロクの板を買って来て適当な箱を作ったら、BOSEの101スピーカーより良い音になるに違いない・・・

ああ、またイカン虫が騒ぎだした。

オーディオに凝ると、いくらでも時間とお金を使ってしまう。だから、できるだけ、避けて居たんだが・・・

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