マツド・サイエンス研究所

宇宙版・金網デスマッチ

宇宙で、ロボコンとかロボワンのような大会をやってみたい。

大学生や高専生・一般社会人が作った人工衛星と言うかロボットを2機または、それ以上同時に打ち上げて、宇宙空間で、対戦を行う。一定時間内に、対戦相手を戦闘不能状態にしたら勝ちだ(別に戦闘的なルールでなくても、玉入れとか、高専ロボコン的なルールでも良い)

上も下も無い真空の宇宙で、音速の20倍を超る高速で軌道を周りながらのバトルである。絶対零度近い極低温と赤道直下の何倍もの太陽光を受け、降り注ぐ宇宙放射線の中と言う苛酷な環境での戦いだ。相手に勝つ以前に、この環境を生き延びることすら戦いだ。まさに技術と技術の真剣勝負である。

とまあ、こんな大会ができたらと、以前から考えていたのだが、本当に実現させるとなると何かと障害が多い。

一番の問題は、「打上げ費用は誰が持つのか?」と、お金の問題であるが、仮にお金の問題を棚に上げても、技術的な問題や、その他の問題が残る。

学生や一般社会人が、ロボット人工衛星を作ること自体は、今の技術水準なら問題ないと思う。2年前に、東大と東工大の学生が、それぞれ、10センチの立方体で、1キログラムの衛星を作り、ロシアのロケットで打上げて、ちゃんと動いている。

問題は、ロボット人工衛星がバトルし、戦闘不能に陥ったり、何かの不具合でコントロールができなくなった時である。制御不能のロボット人工衛星は、宇宙空間を漂い、「宇宙のゴミ」つまり「デブリ」となる。戦闘中に壊れて飛び散った部品もデブリになる。

また、宇宙空間では、予選を勝ち抜いたチームを少なくとも4チームは送って、準決勝2回、3位決定戦、決勝の4試合は行いたい。つまり、1台のロボット人工衛星は、2回戦う必要があるのだが、電池や燃料を使い切ったら、2試合目の相手の前に戻ってこれない。これまた、デブリである。

そもそも、宇宙空間での戦闘のためには、軌道制御が不可欠だが、そのための燃料に何を使うかが、問題だ。普通の衛星に良く使うヒドラジンなんて、猛毒だからやめた方が良い。高圧窒素は毒性は無いが、10気圧以上になると、高圧ガスになるので、法的に許可を取るのが大変だ。

一番、楽なのは、10気圧未満の圧力ガスで、密度の高い液体を噴射するのが良い。宇宙版の「ペットボトル・ロケット」である(噴射した液体は、完全に気化する物が良い。再凝結するとデブリになる)。

「ペットボトル・ロケット」を知っている人なら判ると思うが、簡単だが、すぐに燃料切れになるのだ。バトルに参加するロボット人工衛星以外にも主催者が人工衛星(もしくは打上げたロケットの上段)に、補給用のガスや液体、充電用の電力を用意すれば良い。しかし、そもそも、主催者人工衛星に戻ってこれなければアウトである。このようなランデブー・ドッキング技術は難しく、学生や一般社会人には敷居が高すぎる。主催者側が拾いに行くのだろうが、何処へ飛んで行ったか、判らない奴を回収するのは大変だ。

どうせ、対戦するなら、その映像を撮って、テレビ放送にしてもらいたい。カメラは主催者側の人工衛星に乗せておくのだろうが、バトルの間、双方のロボット人工衛星が、カメラの撮影範囲にいること自体難しい。大方の場合、一瞬で、カメラの前から2機とも消えてしまうだろう。

実は一番の問題は、地上からのコントロールだ。ロボット人工衛星に直接電波を送ってコントロールしたり、ロボット人工衛星から電波を送って状態や画像データを得るのは技術的に大変だ。最低でも数百キロ、離れている時は数千キロの遠距離の高速データ通信が必要になる。その上、電波の免許を取ると言う大変な作業が必要だ。

主催者側の人工衛星が、電波を中継してくれると技術的には楽になる。だが、電波の免許が必要な事には変りが無い。

宇宙空間の電波使用の免許は大変で、普通申請から取得まで3年くらいかかる。それでも、主催者側は3年かかっても取得できれば良いのだが、ロボット人工衛星側は、そうはいかない。予選勝ち抜いてから、3年も待ってられない。予選参加する前から全員が免許申請しておく訳にはいかないだろう。何とか、参加者側に免許が要らないようにしなければならない。

相当、永いこと悩んだが、問題がいっぺんに解決できる方法を思い付いた。それが、イラストの「金網デスマッチ」である。

金網は一辺が2メートル程度あり、打上げロケットの上段に付けられている。金網の中には参加者側のロボット4機と主催者側のレフリーロボットが入っている。

参加者側のロボットは、金網の中を「手足」を使って移動しても、「ペットボトル・ロケット」で動いても自由だ。もちろん、「ペットボトル・ロケット」用の補充ガス&液体及び充電は、仕合毎に主催者が提供してくれる。仮に燃料切れや電池切れになってもレフリーロボットが運んでくれる。

そこそも金網で囲われているので、不具合が起きても、どう壊れても「デブリ」にはならない。

また、金網の中には「無線LAN」用のルーターがある。当然、主催者側が地上のインターネットとルーティングする。参加者側ロボットは、無線LANさえ付ければ、後は簡単だ。ロボットにCMOSカメラを付けてストリーミングしておけば、地上はインターネットに接続するだけで、ロボットからの画像を見ることができる。ゲームパッドから入力して、ロボットをコントロールすることも可能だ。

金網には、シールド用のメッシュが張ってあるから、無線LANの電波が、外に漏れない。だから、参加者側に電波の免許も要らない。

「金網の中のバトルなんて狭すぎる」なんて言いなさんな。○×△に首絞められるぞ!

宇宙の金網デスマッチを勝ち残った勇者には、さらなるバトルフィールドを用意しよう!

次は「月面バトル・ロアイアル」だ!!

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