マツド・サイエンス研究所

僕の宇宙船 安全性

宇宙に行くのは冒険で、冒険に危険は付き物だが、それでも、やはり安全に越したことは無い。

「僕の宇宙船」の場合、「安全」とは「搭乗者が、無事に生きて地球に帰って来る事」を目指す。

例え、打上げに失敗して、ロケットを指令破壊(自爆と言った方が衝撃的だが、分りやすい)する事態になっても、搭乗者が逃げ出して無事に地球に帰ることができたら善しとする。

こういった考えに対し、「絶対に失敗しない」ように「極度に信頼性を高める」と言ったアプローチもあるが、これはコストがかかってしょうがない。

要は、「信頼性」と「安全性」は、別ものなのだ。極端に言うと「信頼性は低いけど、安全性は高い」と言う作り方も、「信頼性は高いけど、安全性は低い」と言う作り方もできる。

「僕の宇宙船」では、「信頼性は多くを望まないが、できるだけ安全に帰って来れる」をコンセプトにする。

そのためには、飛行中のいかなる段階からでも、地球に戻り、搭乗者が生還する機能が必要になる。

宇宙飛行の場合、大きく分けて、

(1) 打上げ時

(2) 周回軌道上

(3) 帰還時

の3つの段階に別れる。

最初の 「(1) 打上げ時」については、色々と考える項目が多いので、先に (2) と (3) から説明する。

これらの内、(2) の周回軌道上で考えられる緊急事態は

・搭乗者の急病

・電力・温度・空気などの生命維持に必要な機能の喪失

・軌道離脱用の逆噴射マヌーバができない

等がある。

最初のトラブルについては、とにかく即座に逆噴射マヌーバを行って、大気圏再突入する。カプセル式の良いところは、帰還する場所の天候が多少悪くて視界が開けていなくても、問題ないところだ。

次のトラブルに関しては、全ての生命維持機能には、バックアップを用意する。バックアップについては、30分程度の短時間だけ生命維持ができれば良い。その間に、逆噴射マヌーバを行い、帰還する。

最後のトラブルは、この段階のトラブルとしては、最も恐ろしい。逆噴射ができないと、軌道によっては永遠に地球に帰れない。宇宙船に乗せてある酸素や水・食料がなくなったら、おしまいだ。

これを避けるためには、逆噴射マヌーバ用のスラスタのバックアップを用意する。

また、そもそも、大気抵抗の大きな低軌道に投入し、例え逆噴射マヌーバ用のスラスタが壊れても、自然に大気抵抗で、何日か以内には地球に戻って来るようにしておくと言う方法もある。この場合は、帰還までの時間が延びるので酸素や食料を多く持って行く必要がある。

また、(3) 帰還時の場合、考えられる緊急事態は

・揚力飛行中の姿勢制御のトラブル

・カプセル内の圧力漏れ

・パラシュートが開かない

等がある。

最初のトラブルに関しては、ロール軸回りに回転させて、揚力をキャンセルさせる。こうすれば、減速Gが増え、乗り心地は悪くなるが、最悪の事態は避けられる。

次のトラブルに関しては、少なくとも短時間は耐えられる与圧服を着ることで対処する。

最後のトラブルについては、パラシュートを二つ以上用意する。

このように、考えられるトラブルに関しては、一つ一つに対して、それごとに対処法を用意する。多くの場合は、バックアップを用意することで対処するが、余り過剰にバックアップを用意すると、そもそもの宇宙船自体の成立性が危うくなる。だから、バックアップ用の機器は、元々の機器よりも性能的に劣っても良い事にする。

例えば、パラシュートの場合、元々のメインシュートは大きく、方向制御の可能なパラフォイル形式としても、バックアップ用のパラシュートは、小さく方向制御のできないタイプにしておく。こうすると、バックアップ時は、何処へ着陸できるか判らない上、降下速度が大きくて、着陸時の衝撃が大きく、乗り心地が悪くなる。でも、乗り心地が悪くても、生きて帰れる方が大事だ。

また、逆噴射マヌーバ用のスラスタのバックアップについては、元々のスラスタよりも性能的に劣ったものでも、地上に帰還できれば良い。例えば、元々のスラスタなら、着陸地点を精度良く決めることができるが、バックアップ用のスラスタなら、地球の何処に帰れるか判らなくなると言うようになる。そもそも、逆噴射マヌーバ用のスラスタを、性能が半分のスラスタの2機構成とか、1/3のスラスタの3機構成にする方法もある。全てのスラスタが働けば、着陸地点を精度良くできる。もし、トラブルが発生しても2機同時または3機同時に働かないことは確率的に非常に小さくなる。1機でもスラスタが働けば、着陸場所の精度が悪くても、帰って来れるようにする。

さて、いよいよ、後回しにして居た「打上げ時の緊急事態」への対処方法だ。

簡単に言えば、緊急事態の時、脱出装置が働き、パラシュートを開いて降りて来る。

ジェット戦闘機の「射出座席」と同じような考え方だ。だが、「射出座席」自体、意外と危険な物だし、宇宙船の脱出装置としては不十分だ。そもそも、打上げロケットが、既に大気圏を脱した状況で緊急事態が発生したら、射出座席で飛び出したら、座席だけで大気圏再突入することになる。これでは危険極まりない。

だから、座席だけではなく、「カプセルごと脱出」する。たとえ、ロケットが爆発しても、カプセルを切り離す。既に、大気圏から出て居ても大丈夫。そもそも、カプセルは大気圏再突入に耐えられるように作られて居る。だから、大気圏に再突入し、十分減速したら、パラシュートを開いて、地上なり、海上に帰って来れる。

カプセルが、至近距離からのロケットの爆発に耐えられるか、疑問に思う人も居るだろう。

カプセルは、小さく丈夫に作る。同じ材料・同じ構造形式なら、つまり同じテクノロジーレベルなら、物は小さければ小さいほど丈夫に作れる。そう言った意味でも「僕の宇宙船」は、可能な限り小さく、丈夫にする。

また、そもそも、カプセルは大気圏再突入の高熱に耐えられるから、ロケットの爆風の熱にも耐えられる。

このように、打上げの段階で緊急事態が発生しても、カプセルごと脱出すれば、万全だ。

だが、この話、2つの点で、気を付けなければならない。

まず、1つ目は、打上げ直後の十分な高度に達して居ない時点だ。パラシュートが開き、安全に降りてくるには、ある程度の高度が必要だ。だから、その高度に達しない段階で、緊急事態が発生した場合、カプセルごと脱出できても、パラシュートが開き切らず、落下したカプセルが地面に激突・・と言うことに成りかねない。

これを避けるためには「脱出ロケット」が必要だ。「脱出ロケット」は、文字通り脱出専用の超小型ロケットで、高度がゼロでも、カプセルをパラシュートが開く高度まで、持ち上げる物だ。これがあれば、打上げの早い段階でも脱出が可能となる。

2つ目の問題は、逆に高度が高すぎる場合だ。

普通、ロケットは、打上げ後、ほぼ垂直に上昇する。大気が薄くなる高度まで上昇した後、水平飛行に移る。目標高度が 200 キロなら、ほぼ、200 キロの高度で水平飛行をし、軌道周回に必要な速度まで加速する。このような飛行経路を取ることが、燃料の消費量を抑えるためには良い。

ところが、この場合、高度は軌道高度並みだが、速度は低い状態を経る。万一、こう言った「高度は高いが、速度は不十分」の状態の時に、緊急事態が発生すると、大変なことになる。カプセルは、ロケットから離れることができても、浮かんで居る訳には行かないから、落下が始まる。この時、周りは、ほぼ真空だから、カプセルの速度を抑える物はない。カプセルは、下向きの速度を上げて、低い高度へ突入する。前にも書いたが、高度が 65 キロをき切ると、徐々に大気が濃くなる。下向きの速度が大きいため、カプセルは一気に大気の濃い高度に高度まで下がる。

速度が高いまま、大気の濃い領域に突入するから大変だ。カプセルは、大気の壁に衝突するようになり、20 G を超る減速 G を受ける。カプセル自体を、20 G を超る減速 G に耐えられるように丈夫に作ることは不可能ではない。しかし、中の搭乗者は耐えられるものではない。

周回軌道から帰還する場合、カプセルの速度は、ずっと大きい。しかし、速度の方向は、ほぼ水平で、下向きの速度は、少ししかない。ほぼ真空中を落下しても、カプセルの下向きの速度が増えない。何故なら、水平方向の速度が、遠心力を生み、それが地球の引力をキャンセルするからだ。

厳密に言うと「遠心力」は仮想の力で現実には存在しない。しかし、直観的に理解し易い概念なので説明に使った。

こうして、周回軌道から、帰還する時のカプセルは、ずっと浅い角度で、大気圏に突入する。下向きの速度は少ないので、急激に大気の濃い領域に入ることは無いため、減速 G が大きくはならない。

いかなる時点で、緊急事態が発生しても、カプセルで無事に帰還するためには、速度が十分に上がるまで、高い高度を取らないような飛行経路を取ることが必要だ。

打上がったロケットが、ほぼ垂直に上昇するところは同じ。だが、大気がほぼ無くなる 65 キロより少しだけ高い 70 キロ程度の低い高度で水平飛行に移る。ここで、速度を上げ、十分な速度が付いた後、目標高度の 200 キロへ上昇する。

このような飛行経路を取ると、十分な速度が得られない水平飛行中に緊急事態が発生しても、切り離されたカプセルが落下し、大気の薄い部分に突入しても、落下する高さが少ないので、下向きの速度が、あまり大きくならない。従って、いきなり大気の濃い高度まで下がることは無く、減速 G が高くなり過ぎることも無い。

ただ、このような飛行経路だと、燃料を余計に使う。複雑な飛行経路を取る訳だし、その上、高度 70 キロでは、薄いとは言え、大気抵抗が残っている。

このため、目的高度まで一気に上昇する飛行経路を取るより、3 割くらい燃料を余計に要る。

燃料が余分に必要でも、安全を優先すべきだろう。それが有人宇宙飛行と言う物だ。一方、無人の貨物輸送は、脱出のことなど考えずに一気に上昇すべきだ。その方が燃料が少なくて済むし、同じ燃料量なら、多くの荷物が運べる。

このように色々な方法を駆使し、飛行経路を曲げても、搭乗者の生命を守るように、安全性を確保する。

ここまで、何回かに渡って、「僕の宇宙船」の地球からの打上げ、周回軌道、帰還、そして安全について書いて来た。

そろそろ、地球から、せいぜい数百キロの近場の宇宙をウロウロする話も飽きたので、次回からは、もっと、ずっと遠くへ行く話をしたいと思う。

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