さて、前回の『僕の宇宙船』で、次なる目的地を『水の在る小惑星』に決めた。しかし、最小限のカプセルを最小限のロケットで地球周回軌道に打上る事だけに最適化した「今までの『僕の宇宙船』」では、とても、そんな遠くまで行けない。
そこで、小惑星に行って帰って来るために必要な『惑星間宇宙船』を造らなければならない。まずは、『惑星間宇宙船』の設計を行う必要がある。
宇宙船の設計と言うと、一般的には「まず、エンジンは何にして、使用するコンピュータは何にして・・」と言いつつ、設計図をいきなり T 定規なり、ドラフター(商品名?)なり、CAD で描いていくと思われて居るかもしれない。
だが、実際の設計では、いきなり詳細な構成を決めたり、設計図を描き始めたりはしない。
まず、最初に『その宇宙船が、どう使われるのか』の検討・分析を行う。『宇宙船の使われ方』から、必要となる機能・性能を抽出する。同時に不要な機能・性能を削除することも重要だ。
こうして、『必要な機能・性能』を満足するように『宇宙船の全体システムを構築』する。
今回、設計の対象となる『惑星間宇宙船』の場合、『その宇宙船が、どう使われるのか』は、
・小惑星まで、行く。(往路)
・小惑星で滞在する。(滞在)
・小惑星から帰って来る。(帰路)
・その期間、中で搭乗員が生活する。
で、構成される。
上記の内、最初の三つ『小惑星まで、行き、滞在し、帰って来る』の検討・分析は、『軌道』を決め、解析することだ。最後の『その期間、中で搭乗員が生活』は、往復に必要な期間に左右される。
単純に、目的地が決まったら、往復の軌道が一意に決まる訳ではない。
地上の『旅』と同じで、『東京から大阪に行く』としても、色々な方法がある。新幹線か飛行機を使うのが普通だろう。しかし、旅費を安く上げたいなら、鈍行列車と言う方法もある。人数や荷物が多ければ、車で行くと言う選択肢もあるし、極端な例では、自転車や徒歩と言う方法もある。
一般的に、『旅費が安い』と『旅程が長く』なる傾向にある。
東京から大阪を自転車や徒歩で行けば、『旅費はタダ』みたいなものだが、『旅程』は数週間は必要だ。その間の宿泊費や食事代を考えると、かえって新幹線よりも高くつくだろう。特に学生でも無ければ、数週間を使う事は、何より贅沢になる。
宇宙船での軌道も同じだ。「『高性能なエンジン』や『大量の燃料』を必要とする軌道」を選ぶと「旅程は短く」なり、逆に「エンジンや燃料を節約する軌道」では「旅程が長く」なる。
宇宙の旅と地上の旅との最大の違いは、生命維持に必要な物資の旅行期間中の補給がほぼ不可能と言う点だ。地上の旅なら、食料や水は、その都度、購入すれば良い。旅程の最初から、全ての食料や水を持って行こう等と言う人はまず居ないだろう。ましてや、その間に呼吸するための空気を心配する人などあろう筈も無い。だが、宇宙の旅の場合、食料・水のみならず、空気までも、旅程の最初から最後までの分を持って行かなければならない。
軌道を決める時、燃料を節約したつもりが、旅程が長くなり、持って行く食料や水・空気が増え、これらを運ぶために、結局は余計な燃料を使う事になる可能性もある。
『軌道を決め、解析』作業のアウトプットは、
・軌道制御に必要な増速量(ΔV:デルタブイ)
・往路/滞在/帰路の期間
である。
二つ目の『往路/滞在/帰路の期間』は、ともかく、一つ目の『軌道制御に必要な増速量』は分りにくいかもしれない。
軌道を変えるための加速・減速を「軌道制御」と言うのだが、この加速減速の絶対値の合計を増速量と言う。(正確には「合計」ではなくて「積分」。何故、「絶対値」かと言うと、加速・減速の符号を考慮すると、往復の合計は、「プラスマイナス・ゼロ」になってしまうから)
もっと単純に「必要なエンジンの性能」とか「燃料の量」が、『軌道を決め、解析』作業のアウトプットであった方が良いと思われるかもしれない。
しかし、先程、少し説明したように、「燃料の量」は、持って行く物資によって左右される。また、「必要なエンジンの性能」も「燃料の量」に深く関わっており、単純に言い表すことはできない。
そこで、「エンジンの性能」や「持って行く物資」に左右されない『数値』として、『増速量』を使う。『増速量』は、軌道を選定した時点で、一意に決まる数値で、「エンジンの性能」や「持って行く物資」に左右されない。逆に『増速量』が判ってさえあれば、「持って行く物資」の量から必要な燃料の量が簡単に計算できる。同様に、燃料の量から「持って行ける物資」の量を計算することも可能だ。
次回から、色々な種類の軌道の選定と解析、それに続いて、必要な物資の見積もりとエンジンや燃料を含めた宇宙船システム全体のコンセプト・デザインを、何通りか検討してみたい。
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