マツド・サイエンス研究所

「学生の人工衛星」と「2005年のロケットボーイズ」

先月末から今月初めにかけて、学生たちの人工衛星のイベントが続いた。

10月30日の日曜日は、衛星設計コンテストの最終審査会が都立航空高専で行われた。

今回は、高校生部門があって面白い。

色々なアイデアがあったのだが、傑作だったのが、宇宙用洗濯機のアイデアであった。

月面恒久基地とか火星探査とか、長期間の宇宙滞在を考えた場合、洗濯物は大きな問題となる。

宇宙で生きて行くのに必要なものと言うと、酸素や飲料水は誰でも思い付くのだが、実際は、生命維持に必要な酸素・飲料水・食料の合計の何倍もの質量の衛生水(洗顔とかシャワー用の水)や着替えが必要になる。

この間、スペースシャトルが久々に宇宙ステーションにドッキングして帰って来たが、2トンのゴミを持って帰ったということだ。詳細は調べて居ないが、ゴミのうちの相当量が「洗濯物」じゃないかと思う。

洗濯機のアイデア、面白いなあと思って居たら、アイデア賞だった。

でも、この「衛星設計コンテスト」、実際に作って宇宙に飛ばすのでは無く、アイデアや設計を競うだけなので、ちょっと寂しい。

11月5日の土曜日は、次期大学衛星設計評価会が東京工業大学で開催された。

これは、一昨年や、つい先日打ち上げられた東大や東工大の学生が作った1キログラムの人工衛星「キューブサット」の、次の世代の設計を評価する会だ。

以前の「キューブサット」や「カンサット(空き缶型衛星)」の設計評価会で、色々コメントしたら、川島レイさんに本に書かれてしまった。今回は大人しくしてようかと会場を見渡すと川島さんは来て居ないようなので、ほっとする。

開催された場所は、東工大だが、東工大の学生衛星だけじゃ無くて、東大や日大の学生さんが作った衛星の設計や製作状況報告もあって面白かった。

東大の学生さんからは、10月27日に打ち上がったばかりのキューブサット XI-V の運用報告もあった。

この設計評価会は、衛星設計コンテストと違って、本気で作って打上るつもりなんで、学生さんたちの意気込みも違う。

あっちこっち、設計・製作上問題になりそうな点を指摘したら、評価会終了後、学生さんがやって来て、色々聞かれてしまった。

それにしても、「衛星設計コンテスト」にしても、「次期大学衛星設計評価会」にしても、参加している大人(宇宙開発のプロ)側のメンバーって、ほとんど同じ。「衛星設計コンテスト」の審査委員や実行委員が「次期大学衛星設計評価会」で評価して居るってわけ。

(私の場合、「衛星設計コンテスト」では審査員じゃ無くて実行委員なんだが)

結局、若い人の手伝いをすすんでやろうと言う人は、それだけ少ないってわけ。

つくづく思うんだが、学生さんたちの「新しいアイデア」を、我々みたいな人間が審査したり評価しちゃいけないと思う。

私にしたって、自分じゃ、まだ若いつもりだし、先入観や常識に捕らわれない斬新なアイデアを考えたり評価して居ると思ってる。

だけど、何だかんだで、20年も、この世界で食って居るわけだから、それなりに固まってしまったところもある。

だから、私が審査なり評価する場合、良い意味でも悪い意味でも、どうしても20年の経験が基準になってしまう。

(繰り返すが、私は「衛星設計コンテスト」では審査員じゃ無くて実行委員)

学生たちの設計の技術的な「見落とし」等を指摘し、改善方法を教えることで、少しでも成功のためになる事を言っているうちは良い。

だが、若い人の柔軟な想像力のアイデアを、古い先入観念で「奇想天外で、あり得ない」とか「そんなもの役に立たない」と言ってしまう事もあるかもしれない。

模型飛行機を飛ばそう

」の記事にも書いたが、「斬新なアイデア」の可否は、「物理法則」のように人間の主観が入らないところで行うべきだと思う。人工衛星なら、実際に作って、打上げて、宇宙に飛ばして試してみるべきだ。

「衛星設計コンテスト」は、残念ながら、実際に作ったり飛ばす事なく、設計を競うだけなので、どうしても審査員の主観に左右される。

(衛星設計コンテストの審査員は、知った人ばかりなので言い訳すると、審査員の人選が悪いと言いたいのではない。私が審査しても同じような結果だったと思う。要は、誰が審査しても余りに斬新なアイデアは評価しようがないって事だ。)

「キューブサット」の方は、実際に作って打上げることを目的としている。だが、人工衛星の打上げの機会が少なく、コストは高い。

人工衛星の打上げに関係したことがある人なら判ると思うが、打上げは本当に大変なことなのだ。

東大と東工大の学生さんたちが作った「キューブサット」が実際に打ち上がり、成功を収めているのは、東大の中須賀先生、東工大の松永先生の両先生の多大の努力があったからだ。

打上げは、大変であり、自ずと打上げ機会は限られる。

日本の大学全体で、数年に1回の打上げ機会が、やっとの現状だ。

少ない打上げの機会を有効に使いたい。どうしても「役に立つ衛星」とか「うまく行く可能性の高い衛星」を選んでしまう。

私は、「キューブサット」では、外部者として、評価するだけの立場である。が、それでも、どうしても「役に立つ」とか「成功可能の高い」方へ推そうとしてしまう。

模型飛行機を飛ばそう

」の記事で書いた事と矛盾してしまっている。

本来、斬新で奇想天外なアイデアは、私のような人間の先入観で評価されるべきではない。

また、そもそも、真の実験とは「うまく行くか? 行かないか?」が判らない事を確認することだ。最初からうまく行くことが判っている実験は意味が半減する。

奇想天外なアイデアを実際に宇宙で試し、うまく行くか行かないか判らない実験を行うには、よほど打上げの機会が豊富でないと不可能だろう。

年に何十機、何百機を超る学生や素人の衛星が打上げられる機会が必要そうだ。(それだけ打上げがあったら、デブリ対策も必須だが)

そうなって、初めて本当のブレークスルーを生む革新が起こるだろう。

と、そんな事を考えていたら、「2005年のロケットボーイズ」と言う小説を紹介されので、読んでみた。

小説は、高校生が「キューブサット」を作って、実際に宇宙へ打上げると言う話。

少なくとも、作者の想定した読者対象に私は含まれていない・・と思った。小節のテーマの一つが「作ることが極めて困難な人工衛星」なのだが、私は衛星くらい自分で作れちゃうもの(プロなんだから、当り前)。

むしろ、小説の中で、あっさり数百万円払っただけで、自分達で作ったキューブサットを打上げられる機会を得られる方が、実際には、よほど可能性がない。

本当に、その程度で誰でも打上げの機会が得られるようになれば、良いんだがなあ。

とは言え、クライマックスのファーストAOS(打上げ後、最初に衛星から電波信号が入感すること)は、ジンとしてしまった。

自分の作った衛星のファーストAOSは、緊張するし楽しいからねえ。

== 蛇足情報 ==

「2005年のロケットボーイズ」を、1月9日、NHK でドラマ放映するそうだ。

訂正

 ドラマ放映するテレビ局はNHKではなく、「テレビ東京」系らしい。間違った情報を伝えて、誠に申し訳ない。

 新たな情報が入ったら、またお知らせする。

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