「ケプラー予想」(ジョージ・G・スピーロ著)と言う本を読んだ。
サイモン・シン著の「暗号解読」「フェルマーの最終定理」「ビックバン宇宙論」とか読むと、数学とか科学に対する数学者とか科学者の真剣さが判るねえ。私が高校生のころに数学部に所属した話題は、ブログでも何度もふれている。この話をすると、多くの人は「(理系人として)理想的な高校生活だったねえ」と感心してくれるが、前出の本を読んでみると、私の高校時代なんて甘かった事が実感される。せいぜい、マーチン・ガードナーだもんなあ。高校の時代に、前出の本のような本を読んでいれば良かったとつくづく思う。自分には遅すぎると思い、娘・息子に読まそうとするが、なかなか読んでくれない。(娘は「フェルマーの最終定理」だけは読んだ)
さて、話を「ケプラー予想」に戻すと、要は球の最密充填は、どうなるかって言う話だ。誰もが想像するように、八百屋の店先で林檎や蜜柑を山積みにするのと同じ置き方になるのだが、これを数学的に厳密に証明するのに400年近くかかった揚げ句、コンピュータを使ってやっと証明したって話だ。
で、最密充填の場合、一つの球は12個の球と接する。球と球との接する点での接線ならぬ接面を、ボロノイ・セルと言うのだが、このボロノイ・セルは左図のような菱型十二面体になる。
実は、この菱型十二面体を14年前に、個人的に研究したことがある。研究を始めた動機は、ケプラー予想とか最密充填とかとは全く関係ない。そもそも当時は「最密充填」とか「ボロノイ・セル」とか言う言葉すら知らなかったし、恥ずかしながら「ケプラー予想」も知らなかった。
研究の動機は、宇宙船とか宇宙ステーションとか大型の人工衛星と言った宇宙機を構成するモジュールの形状として最適なんじゃないかと思ったのだ。
当時、大型化する一方の宇宙機を打上げるのに、通常のように一度に打ち上げるのではなく、何回かに分けてモジュールを打上げ、宇宙空間で組み立てると言う形式の研究が流行った。これをプラットフォームと言ったのだが、プラットフォームの多くはトラス形状の構造体に長方体もしくは円筒形のモジュールを幾つも組み合わせたタイプが多かった。
私は、この形式が「エレガント」ではなくて嫌いだった。隙間が多いし、第一構造的に弱い。
空間を隙間なく充填できる立体としては、立方体もしくは直方体が有名だ。レンガやレゴブロックとして地上で最も使われる形状だ。だが、この形状を宇宙で使うのは問題がある。構造を保つために、モジュール間の荷重が、圧縮力と引っ張り力だけではダメで、どうしても曲げモーメントとか接合面での摩擦力に頼るのだ。
三次元だと複雑になるので、二次元で考えてみよう。
左図の上のように、互い違いに積み重な長方体のブロックの一列に、横から力を加えてみると、仮に面同士の摩擦力が無ければ、容易にずれてしまうだろう。
実際には摩擦があり、ずれることは無い。だが、この摩擦力は、面同士の上下方向の圧力から生まれる。上下方向の圧力の源は、ブロックの自体の質量に作用した引力だ。
つまり、立方体もしくは長方体のブロックが使える必須条件は、重力なのだ。(レゴブロックは、ひっくり返しても繋がっているように独特の突起が付いている。この突起が構造上の急所になっていることは言うまでもない)
それに対して、構造的に最も強いのは、蜂の巣(ハニカム)構造だ。先の図の下のように正六角形を組み合わせた場合、何処に力がかかっても、構造全体に荷重が広がる。この時、正六角形のブロック同士の接する面に垂直にかかる圧縮力もしくは引っ張り力だけで、荷重がパスが成立する。
ハニカム構造を何とか三次元に拡張できないか?
単純にXY平面に広がるハニカムをZ軸方向に延長することはできない。この時、行き着いたのが、ボロノイ・セルだ。左の写真は14年ぶりに作った菱型十二面体だ。急いで作ったので、セロテープだらけで申し訳ない。
この菱型十二面体を幾つか組合わせたのが、次の写真だ。上から見るとハニカム構造になっているのが判る(真ん中に空いた空間に、右の菱型十二面体がスッポリ入る)。
立体的に菱型十二面体を組合せると、4方向から見てハニカム構造になっている。3方向では無く、4方向だ。
最初、私も三次元でのハニカム構造は、X軸Y軸Z軸の3方向から見てハニカムに見えるものを考えていた。しかし、そのような形状は無かった。菱型十二面体の組合せでは、正四面体の中心から各頂へのベクトル方向に見たときにハニカムに見える構造になる。この辺、文章や二次元での図や写真では説明しにくい。興味のある方は、私と同じようにペーパーモデルを作って見ることをお勧めする。
左にペーパーモデル用の展開図を示す。14年前に描いた図のスキャン画像なので、画質が悪くて申し訳ない。なお、自分で展開図を描きたい場合、菱型の鋭角をθとすると、COSθ=1/3になる。
14年前、ここまで個人的に検討した後、正式に業務として研究しようと、職場の上司や研究管理部門の人に何度かペーパーモデルを見せて説明したのだが、構造や荷重の話など誰にも理解されなかった。
その後、私自身の興味の範囲が大型宇宙機から小型衛星に移り、菱型十二面体の個人的研究も3カ月間程度で終わった。
まあ、世界的な情勢としても、電子機器の小型軽量高密度化の影響で、思っていたほど衛星などの大型化は起こらず、プラットフォームも一時的な流行のようにブームが去った。プラットフォーム型宇宙機が実際に打ち上がった事は、ほとんどなく、唯一の例外はISS 国際宇宙ステーションである。
そんな状況だったから、仮に菱型十二面体の研究を正式に業務として認めてもらっても、行き場となるプラットフォーム自体が直ぐに消える運命だったので、研究も宙に浮いただろうから、まあ良いのだが。
で、何故、こんな話を延々したかと言うと、今、改めて考えて見ると、菱型十二面体のような形状モジュール/ブロックは、有人小惑星開発の役に立ちそうだからだ。菱型十二面体のブロック、もしくは菱型のパネルだけでも良いから、大量に小惑星に持って行けば、小惑星に穴を掘って、中で組み立てれば、気密性のある居住区を作れる可能性がある。
もちろん、そう言った用途に、必ずしも菱型十二面体がベストとは限らない。同じ「ケプラー予想」の本にも書いてあったが、空間充填できる多面体として菱型十二面体以外にも良い形状があるそうだ。
また、「隙間の無い」と言う条件を除けば、「圧縮力と引っ張り力」だけで、三次元空間で構造を保つテンセグリティと言うものにも、ここ数年注目している。
もちろん、気密性だけに着目するならインフレータブル構造と言うものもある。
なかなか面白い。
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