良く、「小惑星帯では、小惑星同士が密集していて、通り抜けるのも大変なんでしょう?」と聞かれる。
確かに宇宙戦艦ヤマトにしろ、その他のSF映画にしろ、小惑星がゴロゴロと密集している小惑星帯を、苦労して避けて通るシーンが出ていたりする。
「宇宙は広いから、そんなこと無いよ。小惑星同士って、何千キロとか何万キロとか離れているよ」と言いつつ、本当のところ、良く知らない。小惑星が少なくとも50万個位あるのは知っているし、大体火星と木星の間にあることも知っているけど、それぞれの小惑星が、どのくらいの距離にあるか、良く判らない。
一直線とか円周上に並んでいるなら計算は簡単だが、小惑星は、立体的に分布しているので、そう簡単ではない。立体でも、きちんと格子状に並んでいれば、それなりに計算できるけど、実際はてんでバラバラになっているはずだ。
わからないなら計算すれば良い。
例によって、JPL Solar System Dynamics の Ephemeridesにある情報で計算してみた。
JPL のAsteroids の Small-Body Orbital Elements のページにある
ELEMENTS.NUMBR (圧縮版はELEMENTS.NUMBR.gz)と
ELEMENTS.UNNUM(圧縮版はELEMENTS.UNNUM.gz)が小惑星の軌道データだ。
小惑星の位置の計算プログラムは、asteroidInterval.rb と asteroidInterval2.rb と asteroidInterval.plt だ。
上記でゲットした ELEMENTS.NUMBR と ELEMENTS.UNNUM のあるディレクトリで以下のように、コマンドすると、冒頭のグラフが得られる。(下記は、LINUX式のコマンドだが、ruby と gnuplot がインストされて居れば、Windowsでも動くはずだ)
$ ./asteroidInterval.rb >data.dat
$ ./asteroidInterval2.rb data.dat >asteroidInterval.dat
$ gnuplot asteroidInterval.plt
最初、全て総当たりで、最短間隔を求めようと思ったが、それだと、1つの小惑星あたり2分程度、50万個以上の小惑星全てを求めると、2年くらいかかる計算になる。そこで、アルゴリズムを工夫し、X座標の順にソートして、X座標が、それまでに求めた最短距離を超えたら打ち切るようにした。それでも半日かかる。
ちなみに、グラフは、それぞれの小惑星について、それ以外の最も近い小惑星までの距離と個数の関係を描いている。例えば、グラフのピークは、最も近いそれ以外の小惑星までの距離が 241.0 万km から 242.0 万kmの小惑星は 1610個あるということだ。
計算では、ある時間(この場合、エポックタイムを使っている)での固定した状態だが、最短距離が3 万kmだった。これは、全ての小惑星が、少なくとも3万キロ以上、他の小惑星から離れている事を意味する。3 万kmは、地球2個より大きい。
つまり、「小惑星帯では、小惑星同士が密集していて、通り抜けるのも大変」なんて事はあるわけない。
そんなに小惑星はガラガラなんだ。
小惑星同士の最短距離の平均距離 483万km、最長距離 57億4478万kmだ。どうやら、データの中には小惑星帯どころか、冥王星軌道くらい遠い小惑星も含まれているようだね。
小惑星の99.9%は、最も近い小惑星までの距離は 23万kmから4億7038万kmだ。99%は、距離 51万kmから 3223万kmの間だ。
もちろん、時間が経つと小惑星同士の距離も変化する。長い年月の間には衝突する小惑星もあるかもしれない。
しかし、グラフは、ちょっと非対称に歪んだ正規分布を示しているので、統計的にはそんなに変わらないだろう。
また、実際に今回計算したのは、あくまでも地球から現在観測できるものに限られる。
もっとたくさん小惑星があれば、小惑星同士の距離も短くなるに違いない。
とは言え、現在見つかってる数の1000倍の小惑星があっても、小惑星同士の距離は、1/10 になるだけだろう。
つまり、小惑星の99.9%は、最も近い他の小惑星まで数万キロ以上離れているし、ほとんどは、数十万キロ以上離れていると考えて良い訳だ。
う~~ん、小惑星帯は、ガラガラだとは思っていたけど、思っていたより、ずっとガラガラだったんだねえ。
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