マツド・サイエンス研究所

狭軌に乗ったよ

土曜の夜に仕事があったので、そのまま松阪駅前のホテルで一泊した。その帰り道で、近鉄内部線に乗った。

鉄道マニアでは常識だと思うけど、三重県には現存する数少ない狭軌の軽便鉄道がある。狭軌とは一般と比べて線路幅の狭い鉄道を言うのだが、遊園地などの遊具や保存鉄道は別として、営業路線で残っている狭軌は、三重県四日市を起点とした近鉄内部線、同じく三重県桑名を起点とした三岐鉄道北勢線、残りは黒部渓谷のトロッコ列車の3路線しかない。トロッコ列車は一般的な鉄道路線と言いがたいので、事実上、狭軌の軽便鉄道は三重県にしかないことになる。

世界的なスタンダードで言うと、新幹線や一部の私鉄が使っている線路幅1435mmが標準軌であり、日本のほとんどの鉄道で採用している1067mmも狭軌だと言うのが厳密な言い方なのだが、このコンテンツでは1067mmに満たない線路幅:具体的

には762mmや610mmを『狭軌』と呼び、その線路幅を採用していた鉄道路線を『軽便鉄道』と呼んでいる。

とまあ、以上は鉄道マニアに対する言い訳的な説明だが、一般の人には、昔は線路の幅が狭く、列車自体が小さい『軽便鉄道』が全国に沢山あったと言う事が判ってもらえれば、それで十分である。名前からも判るように「自動車なら軽乗用車」「オートバイなら原付」のように、普通の鉄道よりも小さく安く作れるのが『軽便鉄道』だった。時代の波により、全国の軽便鉄道は、いつの間にか線路の幅を普通の鉄道と同じに広げて列車も普通と同じに変えてしまったか、もしくは、線路の幅を広く列車を大きくする余裕のない路線は廃止されてバスに置き換えられた。そうして、時代から取り残されて残った軽便鉄道は内部線と北勢線だけになってしまったのである。

松阪からの帰りなので、新幹線に乗る名古屋の駅までの間の内部線と北勢線のどちらでも良かったのだが、距離が短くて簡単に乗れる内部線に乗ってみた。

近鉄四日市駅の片隅の自転車置き場のさらに片隅に内部線のホームがあった。当たり前だが、線路の幅はとても狭い。入って来る電車は淡い黄緑色とかオレンジ色のパステルカラーの可愛い電車で、三両編成のワンマンカーである。内部駅から来た列車は思いの外混雑していて、乗客の大半が座れないほどだ。乗客がほとんどいないような廃線寸前のローカル線を予想したいたのだが、どうも違うようだ。

内部駅に向かう下り列車に乗り込むと座り切らないほどの乗客が居るわけではないが、一両あたりに7〜8人乗っており、やはりガラガラのローカル線の雰囲気ではない。

四日市駅を出ると、ど田舎をトコトコと走りだした・・・と言いたいところだが、行けども行けども住宅地の間だ。そもそも起点の四日市自体が大都市だし、営業距離で、たった7キロの内部線では、ど田舎になるわけがない。

う〜〜ん、千葉の いすみ線とか茨城の鹿島鉄道線(鹿島鉄道線は2007年に廃止)のような田舎のローカル線を予想していたんだけど、全然違うな。むしろ、江ノ電とか流鉄流山線の方が近いな。

いまだに軽便鉄道の時代から狭軌のままで続けているのだから、よほど人が乗らない赤字線だと思っていたんだけど、狭軌のままでいる理由は人が乗らないからじゃないな。

人は、それなりに乗るけど、住宅地の間で土地買収ができないから、線路幅を広げるわけには行かない・・ってのが理由だと見たね。

とにかく狭い線路と小さい列車を活かして、狭くて曲がりくねって住宅地の間を縫って上下左右する線路を内部線は、自転車と同じくらいじゃないかってくらいの速度で走っているわけだ。

走っている電車は、いつ作られたか判らないくらい古い電車。たぶん昭和の時代、それもだいぶ古い時代から走っているだろうな。内部線と三岐線でしか狭軌電車は走っていない(トロッコは普通の電車じゃないので)から、いまじゃ新規に作られる事はないんだろうね。日本中にあった軽便鉄道で使われた中古電車が集まってきているんだろうけど、それすらも古くて使えなくなった時、内部線は、線路を広くするんだろうか? その場合、土地買収だけじゃなくて、橋の架け替えとか大変だろうなあ。それとも廃線になって、バスに置き換わるのだろうか?

北勢線は見てないけど、どちらにしても日本から狭軌が無くなるのも、そんなに遠い将来じゃないように思える。

内部線は単線だから、途中の日永駅と泊駅の二箇所で、すれ違うようになっている。それは良いんだけど、泊駅でビックリした。何と右側通行ですれ違っている。

日本の場合、鉄道も車と同じで、複線では左側通行だ。単線の場合も、それに倣ってか、左側に避けてすれ違うのがほとんど。内部線でも日永駅は左側だった。

それが泊駅だと右側に避けてすれ違うので、ちょっと驚いた。なかなか他には無いと思うんだけど、どうだろう?

トコトコと揺られて20分弱、電車は内部駅に着いた。

四日市に比べると少しは田舎になったけど、想像していたほどではない。やはり田舎というよりは住宅地だ。内部駅で降りるも何もすることも無いので、乗ってきた電車に乗って、そのまま帰った。この文章は帰りの新幹線のぞみN700の中で書いているのだけど、同じ「電車」でカテゴライズしても良いのかと思うほどの高速で走っている。

今回は、内部線に乗ったけど、田舎のローカル線と言う意味では、より長い距離を山の中へ向かって走る北勢線に乗った方が良かったかな?

次回、また機会があれば、北勢線に乗ってみようと思う。

それまで、狭軌鉄道が日本に残っていれば良いんだけど。

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