5月25日にS.Matsu氏の「SPACE SERVER――宇宙開発の情報」で、このマツド・サイエンティスト研究所が紹介されている。紹介された時点では、研究報告1だけだったが、その紹介の部分を以下に引用する。
「圧巻は○A×D△有志検討の反物質燃料を使ったロケットの検討だろう。これを読まずしていかなるSF作家も反物質ロケットを小説に登場させてはならない、と思わせる論文だ。」(伏せ字以外、原文のまま、S.Matsu氏の引用承認済み)
これぞ、我が意を得たり。正に、その通りで、反物質ロケットを作品に登場させたいハードSFを目指す方々、是非、我が研究報告を参考にしていただきたい。また、反物質ロケットだけではなく、微小恒星間探査機や、今後続々と報告されるであろう研究報告も参考にしてもらいたい。
だが、その一方で、伊達や酔狂ではなく、本気で私は恒星間飛行を目論んでいるのである。
なお、今回の報告は、一つとして数式や論理展開の無い、単なる私見を述べているだけなので、「研究報告」ではなく、「番外報告」とさせていただいた。
私は、ハードSFのファンである。
今まで、何度も引越しをした。が、就職前に住んでいた横浜でも、種子島でも、筑波でも、松戸の家でも、私の部屋の一番奥の本棚の最上段は、左からアーサー・C・クラーク、アイザック・アシモフ、ロバート・A・ハインライン、ポール・アンダーソンが並び、第二段にラリー・ニーブンやロバート・L・フォワード、ハル・クレメント、ジェームズ・P・ホーガン等が続く。まあ、作者名を見てもらえば、判るように、私はちと古いがガチガチのハードSFファンなのである。残念ながら、これらの本は皆、日本に置いて来ているので手元には無い。
もちろん、SFは小説なり映画なりの娯楽なのだから、読んで楽しければ、それはそれで良いのだが、実は、SFには宇宙開発のような先端技術を促進すると言う重要な役目と言うか効果が有るのだ。
ジュール・ベルヌの「月世界旅行」と言う古典的SFの名作を読んで育った世代が、本当に宇宙開発をして、月に人を送り込んだのは有名な話だ。ゴダードやフォン・ブラウンが、宇宙開発に手を染めるきっかけの一つに「月世界旅行」をあげなかったら、嘘になるだろう。やはり、このような名作SFが、共通的なイメージを作り上げると、それを基盤に実際の技術を積み上げることができるようになる。
逆に、否定的なSF作品しかないと、技術発展を阻害しかねない。良く知られている例では、ロボットがある。西洋で、ロボットは「フランケンシュタイン」と言う完全否定的な作品と、否定的とも肯定的とも言えないアイザック・アシモフのロボット作品群がある(最終的にR・ダニールが身を隠しているから、やっぱり否定的だよね)。だらか、「ロボット=人間に反乱」の図式が有って、これが本当にロボットの進歩を阻害しているのだ。ところが、日本では、ロボットと言うと、手塚治虫の「鉄腕アトム」のイメージが有り、誰も人間に反乱するなんて思わない。研究者や技術者が、「アトムみたいなロボットを作りたいんだ」と言えば、皆納得するし、また、自動車工場で、組立て用のロボットを導入する時も、労働組合もアトムのイメージが有るので、あまり反対しない。で、結構、日本のロボットは世界的にも進んでいるのだ。
本当に、そのくらいSFの影響力は大きい。今、現在、宇宙開発に現実に関わっている人間は、日本だけでなく、世界(NASAやESA、今私が居るSSTL等も含めて)ほとんど、「2001年宇宙の旅」とか「スターウォーズ」「スタートレック」等を見て、育っている(例外も居るけど)。スペース・シャトルの滑空試験機が「エンタープライズ」だったり、実際のシャトルに「デスカバリー」が有ったりする。日本の場合、「オニール式のスペース・コロニー」と言うより、「サイド・セブン」って言った方が早かったりする。日本は、SFはアニメの方が強いなあ。エヴァンゲリオンの射出シーンなんて、H-I(H-IIではなくて、H-I)ロケットの発射シーケンスとソックリだったりして笑ったけど(さしずめ、碇司令は××主任で、赤城は○○管制だな)、その昔、HOPEを「ヤマト」と名付けようとして、○×庁や×○省から怒られたって、話も有るし・・・・
私個人の話になってしまうが、宇宙開発に入ったきっかけは、小学校三年生の時、アポロが月に着陸したのをテレビで見たからである。これは、SFではなく、現実の宇宙開発なのだが、その後、数多くのSFを読んで、宇宙関係へ進む気が強くなった。特に好きなSFは、『大渦巻II』や『中性子性』、『龍の卵』等である。これらは、軌道力学をテーマにしたハードSFで、当時理論が全く理解できなかった。
その後、これらが計算できるように、軌道力学を勉強した。今では、軌道力学の専門家みたいな顔をしている。『ひ○わ×4号』等は、こんな私が静止軌道投入シーケンスを設計したのである。
外国のハードSFに比べて、日本のSFはレベルが低いと思う。使われているアイデアは外国SFからとってきたようだし、多くの場合、理論的に間違っている。レベルが低い原因の一つには、我々のように実際に宇宙開発に関わっている技術者や科学者が閉鎖的なためだと思う。
『大渦巻II』の場合、主人公を助ける「管制官」のセリフは、軌道の六要素を位置・速度の六要素で偏微分した結果の意味を理解していなければ、出てこない。この6x6=36個の微分は、私も「管制官」の新人の頃、やらされたもんだ。手でやると数週間かかる。今なら、数式処理プログラムを使いたいところだ。
アーサー・C・クラーク自身が36個の微分をやったとは思えないから、NASA当たりの本物の「管制官」から理論を聞いたのだろう。こういう繋がりは、ラリー・ニーブンの理論・技術的相談役として、SF作家デビュー前のロバート・L・フォーワードが居たように、ハードSFには欠かせない要素なのかもしれない。『インテグラル・ツリー』の記述なんか、更にさっきの36個の微分を伝播する必要が有る。(これはヒルの方程式と言う非常に有名な式になる。軌道上でのランデブー・ドッキングシーンを描く場合、絶対に理解しなければならない公式だ。)
日本の場合、こうゆう繋がりが、ほとんど無いのだろう。もし、私の論文がSFの参考になるのなら、ドンドン使って欲しい。『反物質ロケット』だけでなく、『鮭の卵』だって、最後に数億年先に何処か遥か彼方の恒星系に辿り着いた『卵』に隠された第2のミッションが何かを仮定するだけで面白いと思う。私なら、自分の遺伝子を乗せておく。約50億と言わる遺伝子、つまり600Mバイトのデータなら『卵』に乗せる事は不可能ではない。どうやって、そこからクローンを作るかは別として、見も知らぬ数億光年の彼方に自分のクローンが再現される可能性がゼロではないと考えただけで、愉快ではないか。
論文を参考にするだけでなく、コンサルタント役・相談役をかって出てもかまわないと思っている。昔、SF作家を目指した事があるが、文才が無いので止めたのだ(笑)。業務に支障の無い限り、技術的な相談に乗ってもかまわないから、本格的『ハードSF』を目指す方、メールで送って下さい。(本当に来るかなあ??)
その一方で、私は本気で、「恒星間飛行」を実現させたいと願っている。「壮大な夢」とか「法螺話」とか言って、冗談のように言っているが、いたって本気なのだ。現在の宇宙開発は、日本に限らず、世界的に大きな夢を描けなくなっている。宇宙開発を進めていく為には、皆があこがれる「大きな夢」が必要で、それが「絵空事」であってはいけないのだ。
本気で実現しようとしているから、問題点とか成立性の困難な点、未検討な部分を明らかにしてWeb上に公開している。誰かが、これらの点を解決するアイデアを出してくれる事を願っているのだ。
「SFで終わる事」と、「実現させる事」の最大の違いは、一部の隙も無く成立するように検討しなければならない事だ。例え、どんなハードSFでも、少なくとも1つは御都合主義の嘘をついて、理論の穴を埋めてもかまわない。この「嘘」をつく事は決して悪い事ではなく、逆に上手い嘘をついて、それを如何に発展させるかが本当のハードSFの面白さだと思っている。
だが、実現させる為には、ごまかしは効かない。相手はもっとも冷酷な物理法則である。だからこそ、成立させるための検討が面白いのだが・・・
「壮大な夢」を実現させる研究の価値を理解して欲しい。そして、貴方もその試みに本気で取り組もうと思ってくれれば、それこそ私の本当のねがいである。