英国的ホームビルドカーの作り方をフローチャート風に示した。
上の図は、私のWebページには、珍しくカラフルで、その上クリッカブル・マップになっている。詳しい説明は各項目をクリックして欲しい。このWebページの外にはリンクしていないので、安心(?)してクリックできる。
全般的な説明と、おことわり
今回紹介した『ホームビルドカーの作り方』は、以前紹介した「Specialist
Sports Cars」社の「STYLUS」の組立て説明書(STYLUS BUILD MANUAL)を基本にしている。これにコブラ・レプリカの「SUMO
Mk3」の組立て説明書(SUMO Construction Manula Sierra Version)と自作スポーツカーの製作本「BUILD
YOUR OWN SPORTS CAR FOR AS LITTLE AS £250」とキットカー全般的なマニュアル「THE
KITCAR BUILDER'S MANUAL」を参考に拡張した。
従って、数多くのキットカーの中には、この『ホームビルドカーの作り方』と作業や順番が全く異なるものも多いと思う。ただ、あまり普遍的に書くと実感が湧かないと思うので、このように「STYLUS」中心の書き方をしている。また、私も最後までホームビルドカーを作った事がある訳ではないので、もれがあるかもしれない。
更に付け加えるならば、ホームビルドカーを作ってナンバー取得し公道を走れるのは英国特有の話であり、このようなホームビルドカーを作って日本でナンバーを取得できる保証は全く無い。この辺は、何度も繰り返し紹介している通りである。
なお、「部品取り車」は、私の造語で、原語は「Donor Car」または「Donor
Vehicle」である。
凡例
この図は、色々なキットカーの作り方をある程度網羅したつもりである。キットカーの種類によって、必要な作業と不要な作業があり、それを色分けしている(カラー表示のできない方、ごめんなさい)。
キットカーを、組立て作業から次のように分けている。今回は、作業で分類したので、『セブンvsコブラ』でやった分類とは異なる。
資料の収集(共通作業)
ホームビルドカーは、キットカーの説明書を読んだだけで作れるほど甘くない。「STYLUS」の組立て説明書は、A4のカラーコピーで僅か16ページしかない。エンジンを組み込む手順なんか、十行ぐらいで「エンジンとギアボックスを付ける」くらいしか書いていない。そのため、作業を始める前に、色々な資料や本を集めて作業方法を調査する必要がある。
この他、エンジンやボディ、電装系、内装その他の取り扱い方法の本が、HaynesのWebのこのページや、キットカー雑誌の広告に出ている。特に自作スポーツカーを作る場合は、溶接の技術が必要なので、同じくこのページで、自動車の溶接(welding)についての本を見付けておくべきだろう。
場所の確保(共通作業)
右の写真は、今私が住んでいる家の隣の家である。写真の右隅に、ちょっとだけ写っている家が私の家だ。
この写真のようにガレージが付いている家は、英国もギルフォードのような田舎街では珍しくない。但し、ロンドン等の大都会では少ない。ガレージの前にもう一台、駐車できるので合計二台駐車できる。もっとも、この辺は、駐車禁止区域ではないし、車の登録に車庫証明なんて物は要らないので、路上にいくら停めてもかまわないが。(英国では、繁華街だけが駐車禁止区域になっており、住宅地は路上駐車はOKだ。但し、駐車禁止区域での違法駐車には、非常に厳しい。)
ガレージは、一般的には、車置き場やホームビルドカーを作る以外に、日曜大工等の工作に使われている。が、最も多いのは単なる物置として使われる事だろう。だが、大事な車を隠している事もたまにある。(私の家の近くに、黒いエリーゼが生息しているらしい。が、何処に隠れているのか、未だ住処を見付けていない)
ホームビルドカーを作りたい人は、まず、この手のガレージ付きの家を借りる事から始めるべきだ。家賃もガレージの無い家と比べて、格段に高い訳ではない。
道具の確保(共通作業)
キットカーの組立てに必要とされる道具は、スパナ、ソケット・レンチ、ハンマー、ドライバー、電気ドリル、ヤスリ、金ノコ、プライヤー、モールグリップ、Gクランプ、メジャー、ポップリベットガン、金バサミ、半田ゴテ、ワイヤーブラシ、スタンレーナイフ、トルクレンチ、ジャッキ、アクスルスタンド等で特に変わったものはない。日本でもホームセンター等で簡単に購入できるものばかりで、英国でも事情は同じだ。エンジンホイスト(エンジンを吊上げるクレーン)だけは、ちょっと特殊かもしれないが、入手不可能ではない。
ただ、道具に関すれば、金の許す限り良いものを買うべきとされている。そこで、中古市場のある英国では、新品の安物を買うより、中古(Second
Hand)の一級品を買う。私もSnap-Onのツールを使った事があるが、外観はソックリでもホームセンターで、安売りしているものと全く違う。背筋が寒くなるほど、その使用感の良さに感動した。Snap-Onみたいな一流のツールを新品でフルセットそろえると、それこそ車が買えるほど金がかかる。こうゆう一流品は、簡単には摩耗したり壊れたりしないから、個人で使うなら中古品で十分だ。一回きりしか使わないような道具はレンタルと言う手もある。
また、防護用のゴーグル、グローブ、防塵マスク、安全靴、消化器も必要になる。
自作スポーツカーを作るには、上記の道具に加えて、MIG溶接(Metal-electrode-Inert-Gas
Welding)機が必要。こんなの日本では簡単に買えるのかなあ? 英国では、街中の金物屋に150から250ポンド位で置いてある。もちろん、溶接用のゴーグルとグローブも必要だ。
ショップと相談(Locostを除く)
マニュアル等を熟読作業計画を立てる(共通作業)
まず、キットカーなら組立て説明書を、自作スポーツカー(Locost)なら「BUILD
YOUR OWN SPORTS CAR FOR AS LITTLE AS £250」を熟読する。これらマニュアルや前述した書籍・資料を元に作業計画を立てる。
マニュアルと言っても、日本のいわゆる「マニュアル本」のように何にも判らん奴でも手順通りにやればなんとかなるような、手取り足取りの親切な本ではない。「溶接の技能(SKILL)を磨くためには成人教育センターに行って勉強しろ・・」くらいは平気で書いてあるから、本気で技能を磨かねばならない。(しかし、こういう個人の趣味の為に、成人教育センターで溶接の技能を教える講座があるんだから、英国は凄いよね。)
マニュアルを読みながら、作業の手順を頭の中で作り上げる。作業の順序はどうか、道具は何が必要かとか。マニュアルだけでは、とても全ての作業の手順など判りはしないから、前述のWorkshop
Manualやノウハウ本も参考にする。それでも足りないところは、資料や書籍を買い足していく。本当は、友人に経験者が居れば良いのだが、まさか日本には「キットカーを作った経験」のある人は居ないと思うし・・ 英国の場合はキットカーの経験者を探せば良いのだが、変な日本人だと思われる(本当に変な日本人だからしょうがない)。
手順と共に必要な部品をリストアップし購入計画を立てる。キットになんでも入っていると思ったら大間違いだ。「部品取り車」から取る部品、キットに含まれる部品、全く別個に購入する部品をリストアップする。特に最後の全く別個に購入する部品は、何時何処から購入するかも検討しておかなければならない。
このように、必要な部品のリストと購入計画を作り、具体的な作業の手順を頭の中で全て思い描けるようにしておかないと次の段階には移れない。次は、いよいよ本当に車の購入になるからだ。(今現在の私自身が、ちょうど此所の作業手順の計画を作っているところである。と言っても私が次の段階に移るかどうがは未だ決まっていないが)
部品取り車購入・部品を取り外す(共通作業)
必要となる「部品取り車」を購入する。「STYLUS」の場合、「部品取り車」が「Ford
Escort MKII」である。自作スポーツカー(Locost)の場合は、「Ford Escort MKI」でも可。もちろん、中古だが、車検(MOT)の切れたような車でも良い。要はボディなんて全て捨てるので、外観なんかどうでも良い。「STYLUS」の組立て説明書によると50ポンドから500ポンド位で手に入るようだ。
「STYLUS」の場合、「部品取り車」から、エンジン、ギアボックス、プロペラシャフト、後輪車軸、ステアリングコラムとラック、マクファーソンストラット・ブレーキ類を含めた前輪ハブ、ホイールとタイヤ、ペダル類、配線、スイッチ、計器、スピードケーブル、ハンドブレーキとケーブル、ラジエターとホース、バッテリー、ホーン、クラッチ及びスロットルケーブル、ウォッシャーを取り出す。安く作りたい時は、排気系とマスターシリンダーも使う。
自作スポーツカー(Locost)の場合、エンジン、ギアボックス、プロペラシャフト、後輪車軸、ステアリングコラムとラック、ホイールとタイヤ、ペダル類、マスターシリンダー、配線、スイッチ、計器、スピードケーブル、ハンドブレーキとケーブル、ラジエターとホース、バッテリー、ホーン、クラッチ及びスロットルケーブル、排気管、消音器等を取り出す(細かい部品は省略した)。
取り出した部品は、清掃し、必要が有れば補修・修理をする。ゴム製品や消耗品はは劣化が激しいので、ラバーブッシュやゴムのボールジョイントカバー、ブレーキパッド等は、再利用せずに新品に取り替える。英国では、この手の保守部品はカーアクセサリー店で簡単に手に入る。
残った部分は、ゴミとしてスクラップ行きだ。
なお、わざわざ、オンボロ車を購入せずとも、「Ford Escort MKII」のようにメジャーな「部品取り車」の場合、必要なランニングギアを調達する専門業者も有るようだ。多少高くはなるかもしれないが、ボロ車を購入し分解する手間が面倒な人には向く。
キットの発注(Locostを除く)
ショップより、キットを購入する。発注から納入まで時間がかかるから、この間に並行して、部品の加工やそれ以外の部品を手配する。「STYLUS」の場合、キットはシャーシ・パック、ボディ・バック、フィッティング・パックとそれ以外のオプションから構成される。
「STYLUS」のキット本体は、シャーシ・パック+ボディ・バック+フィッティング・パックの合計で、4,161ポンドである。「SUMO」の場合も、キット構成は似たようなもんで、ワイパー類が付いてなかったりするだけだ。
セブンタイプのキットカーの場合、ボディその物が無い。安くつくはずである。なお、キットに含まれる各部品は全て価格が表示されており、特定部品を単独で買う事も、それ以外を買う事も可能である。
部品の加工(共通作業)
「STYLUS」の場合、「部品取り車」から取った部品の内、後輪車軸とプロペラシャフト、ペダル、ステアリングコラム、フロントハブを加工する。後輪車軸は、5リンク用のブランケットを取り付ける。プロペラシャフトは短くする。ペダルのピボットも同様に短くする。ステアリングコラムは延長する。フロントハブはマクファーソン・ストラットを切り、ダブルウイッシュボーン用に変更する。
これらの加工は、一部は自分でもでき、そのために必要な図面を渡してくれるが、ショップを経て工場(SYLVA)にて加工するのが普通だし、その費用はシャーシパックに含まれている。この加工には3週間が必要で、キットを納入するまでの期間に並行して作業を依頼する。
自作スポーツカー(Locost)の場合、同じように後輪車軸は、5リンク用のブランケットを取り付け、プロペラシャフトは短くし、ステアリングコラムは延長する。
部品取り車・キット以外の部品(共通作業)
キットカーと言えども、キット以外に部品を買い求める必要が有る。「STYLUS」の場合、BL
ALLEGROのステアリングコラムのエクステンションとミニ用のヒーター、ロータス・エランS3用のフロント・ガラス。こういう保守用部品とかガラスは英国では簡単に揃う。ディーラー自体が保守用部品の単独販売もするし、また、保守部品やガラス専門の店もある。昔は日本でもホンダSF(サービス・ファクトリー)なんてのが有って、保守部品が比較的簡単に手に入ったものだがねえ。
エンジン等を「部品取り車」から取ったプアな物から、Zetecとか、その他の強力なものにしたい時は、ここで購入する。エンジンそのものは、キットカーのショップでは、直接扱っていないので、専門の業者に頼む。同時にエンジンに合うギアボックスも忘れずに。なお、キットカーのショップの方には、主なエンジンに合せたエンジンマウントがあるので、それを注文する。
自作スポーツカー(Locost)の場合、流石に量が多いので多少省略する。Ford
Cortinaのフロントハブとボトムジョイント、Ford Transit Van のトラック・ロッド・エンド、コイルオーバーショックアブソーバー、Triumph
Heraldsのメタリックブッシュ、ミニ用のワイパー一式、Atusin Allegroからハンドブレーキケーブルとステアリングコラム・イグニッションスイッチ、方向指示器、リアライト、フロントサイドランプ、ヘッドライト、リアナンバープレート、リアシート、エレクトリックファン、サーモスタット。ここからは部品と言うより資材だ。四角断面鋼管各種、丸断面鋼管各種、鉄板、アルミ板、ガラス板等など。この中で面倒そうなのが、フロントハブ位で、後はトラック・ロッド・エンドはFordのディーラーから手に入りそうだし、メタルブッシュは通信販売の店を見付けた。ミニのワイパーとライト類も専門の通信販売の店がある。原書では、スクラップから拾ってくるべしとあった。
と、ここまで書いて気が付いたのだが、「STYLUS」の場合、シートと排気系はオプション設定になっていて、キット本体にも部品取り車にも、それ以外の部品にも含まれていない。また、ミラーは何処にも記載されていない。シートも排気系もミラーも入手は楽なものだが、もっと探せば、それ以外にも記載漏れが有るかもしれない。
「部品取り車」の部品の取り残しをスクラップに出した後で、重要な部品を取り残していた事に気が付いても後の祭りだ。やっぱり、「プラスチック・モデル」みたいに部品が全部揃っていて当たり前・とは世界が違うんだね。
仮組み(一般のキットカー)
FRPボディを付けずに、シャーシに全ての部品を取りつける。その後、分解して、本組みに入る。セブンタイプの車では、FRPボディそのものが無いので、この作業は必要が無いが、本組みの前に仮組立てをしておいた方が良い。
シャーシ・サスペンションの製作(自作スポーツカー
Locost)
自作スポーツカーのシャーシ及びサスペンションを作る。
シャーシは、四角断面鋼管を主体に、溶接してスペースフレームを作る。「BUILD
YOUR OWN SPORTS CAR FOR AS LITTLE AS £250」を参考にすれば、治具無しで、シャーシを作る事ができる。
フロントのサスペンションは、ダブルウイッシュボーンだ。A型のボトム/トップ・アームを丸断面鋼管を溶接して作る。ハブとのジョイント部分は、ボトム側はFord
Cortinaの物を用い、トップ側はFord Transit Van のトラック・ロッド・エンドを使う。シャーシとのジョイントはTriumph
Heraldsのメタリックブッシュを使う。リアのサスペンションはトレーリングアーム式の5リンクで、各アームを丸断面鋼管を溶接して作る。各ジョイントは、やはりTriumph
Heraldsのメタリックブッシュを使う。
実は、私も一体どうやってキットカーとか自作でスポーツカーとか作るんだろうと思っていた。日本で想像する車工場なんて、巨大な設備で、とても裏庭(バックヤード)で車を作るなんて想像もできなかった。が、この辺の方法が判って、やっと理解できた。スペースフレームなら、大した設備も場所も無くても簡単に作れる。必要なのは、せいぜいMIG溶接機だけで、後は金ノコの類だ。前述したようにMIG溶接機の為の初期投資なんて数百ポンドだもんね。サスペンションも、ベアリング/ブッシュが保守用に簡単に手に入るので、後はアームを溶接するだけ。自分で作るのが、面倒なエンジン・ギア・フロント/リアのハブ等を「部品取り車」から取ってくるだけで、車ができてしまう。
一般のモノコック構造の車を作ろうとしたら、プレス機だけで物凄い初期投資になるからね。でも、スペースフレームは、大量生産向きではないが、少量生産なら初期投資も少ないわりには、良い性能が出せるから、バックヤードビルダー向きだ。
もう一つ、ランニング・ギアを一般車から取ってきたら、元の車と同じだろうと言う疑念も晴れた。サスペンション・アームなんて、ジオメトリを計算して、長さとかを設計している。さすがにリア・リジット・アクスルを延長/短縮は面倒だから、リア・トレッドは元のままだが、プロペラシャフトの延長/短縮をするので、ホイールベースも変えられる。これだけ、元の車から変わったら、「元の車と同じ」ではないなあ。
シャーシのペイント(共通作業)
シャーシとサスペンション・アームに防錆用のペイントを行なう。なお、良く見ると、「STYLUS」の場合、シャーシパックに、このためのパウダーコート代が含まれている。
シャーシにアルミパネルを貼る(共通作業)
シャーシにアルミパネルをリベットで貼る。これは、見た目の問題もあるが、補強の意味もある。なお、セブンタイプの場合、シャーシに貼ったアルミが、そのままボディ外殻になってしまう。
「STYLUS」の場合、人が乗る部分の床とプロペラシャフトの通るトンネルにアルミパネルを貼る。セブンタイプのキットカーや自作スポーツカーの場合は、その他に外殻にもアルミを貼る。
フロント&リア・サスペンションとハンドブレーキ(共通作業)
まず、リア・サスペンションから。各アームとショックアブソーバーをシャーシと後輪車軸にボルトで固定する。この時、ブッシュを忘れないように。次にハンドブレーキをプロペラシャフト・トンネル部に固定し、リアブレーキから、ケーブルを這わせて繋ぐ。
フロントサスペンションも、同様。各アームとショックアブソーバーをシャーシとフロントハブにボルトで固定、同じくブッシュを入れる。特に「STYLUS」の場合、ロッカー・アーム式のダブルウイッシュボーンなので、ショックアブソーバーがシャーシの中側(インボード)に入る。
ステアリング系も作る。ステアリングラックを、シャーシに固定し、ロッドをハブに繋ぐ。延長したステアリングコラムを運転席側まで延ばしておく。ハンドル(ステアリングホイール)は、内装の時付ける。
ブレーキ系(共通作業)
まず、ペダルを3つとも付けてしまう。アクセル(スロットル)ペダル、ブレーキペダル、クラッチペダルだ。「STYLUS」の場合、専用のマスターシリンダーを付ける。自作スポーツカー(Locost)の場合、サーボは無い。セブンタイプの場合、サーボもデッドウェイトなんだろうなあ。
後は、前輪のディスクブレーキ、後輪のドラムブレーキと配管する。配管用の専用道具も売っている。ブレーキの配管はシャーシの下側をくぐらせないようにする。腹を擦っただけで、ブレーキの効かない車になってしまうので。
燃料系(共通作業)
まず、燃料タンクを付ける。なお、英国では絶対にガソリンとは呼ばない。petrolである。したがって、petrol
tankまたはfuel tankを取り付ける。「STYLUS」の場合は、キットに付いているMGミジェット用の燃料タンクを付ける。自作スポーツカー(Locost)の場合、最初に鉄板を溶接して、タンクを作らなければいけない。
燃料タンクを付けたなら、燃料ポンプなどを経て、エンジンに通じるように配管をする。なお、必要に応じて(絶対必要だと思う・・のは日本人だけかな?)、タンクに燃料の残量を測るセンサーを取り付けて置く。これは後で、計器の燃料計に繋ぐ。
エンジン・ギアボックス(共通作業)
エンジンとギアボックスに合ったマウントを用意する。キットカーの場合、オプション扱いで購入する。自作スポーツカー(Locost)の場合は、鉄板を溶接して自分で作る。
エンジンとギアボックスにマウントを付けておいて、エンジンホイストで吊上げ、シャーシに入れ込む。無事にマウントをシャーシに固定できたら成功。補器類は後から付ける。その後、後輪車軸のデフとギアボックスをプロペラシャフトで繋ぐ。マニホールドを付けておく。
アクセル(スロットル)ペダル、クラッチペダルからのケーブルを接続しておく。
冷却系(共通作業)
ラジエターを固定し、ファンを付ける。リザーブタンクを固定した後、エンジン、リザーブタンク、ラジエターをホースで繋ぐ。
ヒーター(共通作業)
ヒーターを付ける。大体どの車もミニ用のヒーターを使っているな。余程汎用性があるのだろう。ヒーターをダッシュボード裏側に固定し、吹き出し口を作る。ヒーターは冷却用のホースと繋ぐ。
トランク底と隔壁(一般のキットカー)
英国では、トランクではなく、bootである。燃料タンクの上にトランクの底と隔壁を付ける。
セブンタイプの車にはトランク自体が無いし、一般のキットカーにも「FURY」のようにトランクの無いキットカーも多い。
メインボディ(FRP)(一般のキットカー)
シャーシの方はほとんどできているので、タイヤを付けて、自立できるようにしておく。ボディはFRPなので、そんなに重くはない。二人で、ボディの前と後ろを持って、ホイッとシャーシに乗っけてしまう。後は、電気ドリルで、バリバリ取り付け穴を開けて、ボルトで固定する。
なお、FRPボディは、取り付け前に、バリだとか余計な部分をちゃんと切り取っておく事。(ほとんどプラスチックモデルだなあ。)
ボンネットとトランク(FRP)(一般のキットカー)
ボンネットとトランクを付ける。ヒンジを使ってボディと繋ぐ。取っ手の部分も付ける。
ドア(FRP)(一般のキットカー)
ドアは内張りと外張りに別れている。まず、ヒンジをボディに付け、それにドアの内張りを付ける。取っ手の機構も内張り部に付け、内張りだけで、開口できるようにする。それに奇麗にボディと合うようにカットしたドアの外張りを貼り付ける。
ノーズ フェンダー(FRP)、ボンネット(アルミ)(セブンタイプ、自作スポーツカー)
セブンタイプの場合、ノーズとフェンダーだけがFRPで出来ていて、これを固定する。自作スポーツカーの場合、キット用や保守用に売られているノーズとフェンダーを買ってきちゃう。
ボンネットはアルミを曲げただけの物、これをスーツケースの蓋の鍵みたいな金具で固定する。自作スポーツカーの場合、アルミ板を、トンカンたたいてボンネットを作ってしまう。
ライト系(共通作業)
ヘッドライト、方向指示器、リアライト、必要ならフォグライトを取り付ける。
ダッシュボードと計器(共通作業)
ダッシュボードは、文字通りボード(板)。木とかアルミの板をボディに合せて切り出し、これに計器を付ける穴を空ける。木の場合は、皮などを張っておくと格好良い。
ダッシュボードに計器を取り付け、ボディに固定する。エンジンの回転ケーブル、スピードケーブル、燃料タンクの残量センサーなどを計器に接続する。
配線(共通作業)
バッテリーを取り付け、必要な配線をする。
内装・シート(共通作業)
内装を貼る(何を貼るかは自由)。シートの取付金具を取り付けた後、シートを取り付ける。
塗装(共通作業)
ボディの外側を塗る。自分で、刷毛で塗ったり、吹いたりも出来るんだろうけど、これだけの大面積は大変だ。英国ホームビルダーでも専門の業者に出すみたい。
FRPボディだから、焼付け塗装はできないだろうなあ。普通のペイントでも十分奇麗になるけど・・・。
セブンタイプ(自作スポーツカーも含む)の場合は、ノーズとフェンダーがFRPで、ここを塗装する。残りはアルミだが、磨きあげる事を薦められている。アルミの塗装は難しいからね。
ところで、私だったら、塗装した後に内装をすると思うんだけど、皆さんなら、どう思う?
フロントガラス(共通作業)
フロントガラスもwindow screenと言うのが英国風だ。
「STYLUS」の場合、エランS3のwindow screenを使う。フロントガラスの為だけに、中古のエランS3を買い求める奴は居ないだろうから(そんな簡単にエランが手に入るなら、STYLUSなんぞ作らずに、レストアした方が良い)、window
screenの専門店で買い求める。こう言うwindow screenの専門店はギルフォードと言わず、何処の街でも英国にはゴロゴロしているのだが、ガラスが割れ易いんだろうか?
セブンタイプ(自作スポーツカーも含む)の場合は、単なる平面ガラスだ。外側だけ、形通りに切り取って、アルミのサッシを付けて、ボディに固定する。本当、セブンタイプって、何処までもチープだな。
フロントガラスを付けたら、ワイパーを付ける。これまたミニ用のワイパーが良く用いられる。ミニ用のワイパー・ユニットは、左右のワイパーとモーターがケーブルで繋がれている。このケーブルの長さを自由に変えられるので、どんな大きさのフロントガラスにも対応できる訳だ。で、ミニ用のワイパー・ユニットは、結構色んな店に置いてあるのだが、日本には汎用のワイパー・ユニットなんて何処の店にも無いよね。
シートベルト(共通作業)
シートベルトを取り付ける。前後を間違えないように。(前後を間違えると、衝撃を受けた時、上手くロックしないらしいんだが、本当かしら?)
排気系(共通作業)
排気管と消音機を取り付ける。普通は車体の裏側に取り付けるのだが、コブラ・レプリカやセブンタイプでは、サイドにむき出しにする事も多い。
別に何処に取り付けても個人の自由だが、サイドにむき出しの時は火傷しないようにカバーを付ける事。
幌とサイドガラス(共通作業)
幌のフレームを取り付ける。「STYLUS」の場合、サイドガラスはアクリルだ。幌付けたら碌な視界は無いんだろうなあ。
セブンタイプの場合、幌を付けない場合もある。幌もデッドウェイトだ。日本のバイク乗りみたいに「雨が降ろうが、雪が降ろうが、屋根無しでも寒くない」と突っ張っているのかと思えば、そうでもないみたいだ。単に雨が降ったら、セブンタイプの車には乗らないだけだ。思ったより軟弱!? そうかと思えば、本当に雨が降ろうと雪が降ろうとゴルフやラグビーの試合はやるし・・・ どうも、この国の人の考えている事はよく判らん。
登録・試走(共通作業)
登録する。こんな物で、ナンバー取得が出来るから、英国も大した物だ。
試走して、キャスターやトーイン等を調整する。さすがにスクラブまでは調整できないか。しかし、こんなサスペンションの調整を試走しながら行なうなんて、楽しそうと言うか、ちと恐いと言うか。
最後に
細々と、ホームビルドカーの作り方を説明した。が、これが何の役にたつのだろうか? 日本にキットカーを個人輸入して組立てても、まず、ナンバー取得が困難を極めるだろうから、ホームビルドカーの作り方なんて役に立たない。まあ、元々「英国文化考」の主旨は、役に立たない情報の提供だから、全く役に立たなくても読んで面白ければ、それは、それで良い。が、一応、ここまで、特に日本からの書籍類の購入も含めて組立て方法を紹介したのには、次のような目的がある。
上記の3つの目的の内、最後のモノが本当に私が望んでいるものだ。
ちょうど一年前、私が日本で渡英準備をしている時に、英国のホームビルドカーについて調べたが、詳しい事はほとんど判らなかった。何も準備しないまま、英国に来て、何処から手を付けたら良いか判らないまま闇雲に調査したら、ここまで情報を集めるのに半年もかかってしまった。
そんなこんなで、私は貴重な時間を無駄に使ってしまった訳だが、一年前に日本で調査した時に欲しかった情報を、私のホームページに載せている。誰か、これから英国に来る人で、ホームビルドカーを作りたいと思っている人の役に立てれば、私の半年間の調査期間も、まるで無駄ではなかった事になる。
数年後、本当に誰か、私のホームページの情報を生かして、ホームビルドカーを作る事ができたら、是非、メール等で連絡して欲しい。できたら、助手席で良いから、その車に乗せて欲しい・・・と思う。