野田篤司の英国文化考

その14 Ford (浅瀬) 24th July 1998


洪水? 地盤沈下?? これはFordだ!!

 左の写真は、洪水で川の水があふれた訳でも、地盤沈下が起こった訳でもない。

 我が家から、歩いてわずか数分の所にある小川にあるFordである。

 Fordと言っても、私のホームページに良く登場する車のメーカーとは関係が無い。Fordとは、川の中で、人が歩いて渡れるくらいの浅瀬を意味する。

 私の住んでいるギルフォード(Guildford)にも地名にfordが入っているし、他にもオックスフォード(Oxford)等、英国の街の名前には、Fordと言う言葉が入っているものが多い。

 ギルフォードは街の真ん中に南北にテームズ川の支流が、流れている。橋が作れなかった昔、ここに浅瀬があって、それが交通の要所として、街ができたことは想像に難くない。江戸時代の東海道の大井川の両岸に宿場街が発達したのと同じだ。(大井川の場合、技術的に橋が建築できなかったのではなく、江戸幕府の政策的なものだったらしい。)オックスフォードには行ったことが無いが、地図で見る限りここも川がある。文字通り、牛が渡れるような浅瀬があったのだろう。

 だが、中世ならいざ知らず、建築・土木技術の発達した現代に、何故こんなFordが住宅地の真ん中に存在するのだろうか?

 最初、このFordを見て、私も洪水か地盤沈下のせいだと思った。それを放置している市だか、道路管理局だかの当該当局の怠慢だと、呆れたものである。

 しかし、右の写真のように、このFordの両岸にはFordがあることを示す標識が立っている。また、この小川に架かっている他の橋はどれも車の通れるまともな橋だし、Fordと平行して、人の通れる橋も架かっている。この人専用の橋は、幅が狭いので、車は通れないが、強度的には車くらい十分通れそうな頑丈な橋である。

 第一、Fordの道ある道の周りには洪水や地盤沈下の痕跡すら無い。

 このような理由から、当局は、このFordを怠慢ゆえに放置しているのでは無く、存在を知っていて、その上で、この状態で整備していると推測される。いや、むしろ、このFordは、ここの住宅地を開発する当初から計画的に設置されたふしすらある。

 では、何故、このようなFordが住宅地の真ん中に設置されたか?

 例によって、私の独断と偏見を交えた推理(憶測?)をお届けする。

車が通り抜けできない住宅地

 左の写真は、私の子供達である。後ろに見えるのが、私の家(借家)だ。

 子供達は、道路で遊んでいる。

 「自動車の走る道路で遊ぶなんて、そんな危ないこと!!」と、思わないで欲しい。

 ここは、日本の道路と比べ物にならない位、安全なのだ。
(だからと言って、英国でも道路で遊ぶのはいけないんだよ。)

 車は、ほとんど来ないし、スピードも出していない。スピードを出していない理由は写真でも判る「石畳」の道のせいだけではない。

 私が、現在住んでいるところは、他のコンテンツでも紹介したようにギルフォード市のバーファム(Burpham)と言う住宅地である。バーファムと、その隣で娘の学校があるメロー(Merrow)は、ギルフォード市の郊外にあり、比較的新しい住宅地である。

 バーファムとメローに限って言えば、住宅地の中を走る道は図1左に示したように木構造になっている。図中、赤い太線が幹線道路で、青い細線が住宅地の中を走る道である。

図1

 日本の場合なら、幹線道路が、住宅地の南と北にあれば、その両方に出入り口を設けるのが普通だ。だが、ここでは、一個所にしか出入り口は無い。従って、一番奥に住んでいる人の車が、そのすぐ裏を走っている幹線道路に出る為には、わざわざ、遠回りして、一つしか無い出入り口から回っていく必要が有る。不便な話だ。(もっとも、歩行者が通れる道は存在する)

 だが、このような道の構造は、住民にとって、不便なことばかりではない。図1左のように、住宅地の中の道は、木の枝のようになっており、しかも狭く曲がりくねっている。私の家は、枝の枝の、小枝の先にある。だから、ここに車で来る人は、この小枝に家を持つ数世帯の人か、それに用事のある人、ゴミ収集車や郵便配達人、それとたまに道に迷って入ってくる車だけである。

 つまり、通り抜けをする車が居ない。住宅地に直接用事がある車だけだから、車の数も少ないし、目的地も近いので、ゆっくり走る。

 日本のように、住宅地に複数の出入り口があれば、その中を通りぬけする車がある。そして、その様な車は、元々時間を稼ぐためだから、速く走る。

 図1左のような木構造だけでなく、図1右のような周回構造を持った住宅地内の道もあるが、通りぬけできないことでは、同じである。

図2

 たまに図2のように、住宅地内で二つの木構造とか周回道路が繋がっていることもある。が、流石に幹線道路を数十メートルでつながっている二つの出入り口を、数百メートルも遠回りして住宅地内を通り抜けする車は居ない。

 このように、通り抜けできない住宅地の構造は、住宅地に住む人に安全と静粛(騒音が無い)を届ける。その上、英国の道路が、日本のように混雑しないのも通りぬけできないために、全ての車が幹線道路を走るためかもしれない。

 この通り抜けできない住宅地の道にも例外ががる。それが、図3である。

図3

 図3の下やや左にある交差点は、朝夕、猛烈に混む。と言っても英国の混雑は日本ほど酷くはないが。
 図を見てもらえば、判ると思うが、右方向からは、高速道路の出口、左にはギルフォード、上には高速道路入り口と隣市のウォーキング(Woking)がある。これだけ有れば、色々な方向から色々な方向に行く車が入り交じって、交差点が混むのは当然だ。

 ところが、高速道路から降り、ウォーキング方向に行く車には、住宅地の中を通って、混雑する交差点をパスする道があるのだ。多少、遠回りになっても混雑する交差点をパスできれば、時間を稼ぐことができるかもしれない。

 だが、これを防ぐかのように、例のFordが存在する。いや、これを防ぐためにこそ、このFordが、意図的に、ここに設置されたのであろう。

 もし、このFordが無ければ、朝夕のラッシュ時に、住宅地の中を猛烈な勢いで通り抜けする車が多く表れるに違いない。

 そう、私の推理(憶測?)とは、「Fordは朝夕に起こるであろう通り抜け車を防止するために設置された」と言うことである。

でも、何か変?

 と、ここで私の推理(憶測?)は終わる。本当にそうなのかは、市なり警察なりに確認した訳ではないので、分からない。

 同じギルフォードでも、市街地に近い古くからある住宅街は、日本のように碁盤目を基本にする道路だし、ギルフォード以外の市で新しい住宅街はどうなって居るか調べてはいない。

 また、バーファムとメローの中にも、幾つか通りぬけできそうな道(と言っても余り役に立ちそうも無いが)を見付けているので、私の推理も怪しいものである。

 第一、通り抜けを防止するのだったら、Fordなんか作らずに道を閉鎖すれば良いんだよね。

と言う訳で、謎は続くのであった・・・・・ 


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