概要
基礎研究や革新的技術開発では「選択と集中」は間違い。
「研究資金を闇雲にばら撒けばいい」と言うのも乱暴。
「基礎研究や革新的技術開発」の成果が「ベル型」の確率分布ではなく、「べき乗分布」であることが原因だと推測。
べき乗の場合、「研究資金をどう配分すべきか」を数式とシミュレーションを用いて説明。
べき乗が正しい場合、研究や技術開発にどう言う姿勢で取り組むか
内容
基礎研究や革新的技術開発では「選択と集中」は間違っていたと言うのは、全員とは言えないまでも、比較的多くの人が賛同するだろう。
だからと言って、「『選択の集中』の真逆に『研究資金を闇雲にばら撒く』」と言うのも、短絡的で乱暴な話だ
もう少し論理的に考えてみようというのが、このコンテンツの目的
検討の結果、結局は『研究資金を闇雲にばら撒く』に近い形になったが、数学的な説明もある。
検討の大前提として、次の2つを仮定した。
- 「将来、役に立つ基礎研究や革新的技術開発」を予測するのは不可能
- 「基礎研究や革新的技術開発」の成果の価値は、べき乗の確率で分布する
まずは、「将来、役に立つ基礎研究や革新的技術開発」を予測するのは不可能だと判断した。 もし、「将来、役に立つ基礎研究や革新的技術開発」が予測できるのなら、それに研究資金を集中すれば良いのだから、「選択と集中」は成功していたはずだ。(詳しくは
本当に「誰も将来に斬新な価値を生む研究を選ぶこと等できない」のか?を参照の事)
次に、「選択と集中」戦略が間違ったのは、「基礎研究や革新的技術開発」の成果の価値が、一般に考えられるような正規分布(ガウス分布。ベル型とも呼ばれる)の確率分布ではなく、「べき乗分布」であることが原因だと推測した
「べき乗分布」を考え付いたのは、書籍「ブラックスワン」
ナシーム・ニコラス・タレブ著 上巻:ISBN-10: 4478001251 ISBN-13: 978-4478001257 下巻:ISBN-10: 4478008884 ISBN-13: 978-4478008881
を読んだ影響が大きい。
「ブラックスワン」とは、文字通り「黒い白鳥」で、「『そんなものがいる訳ない』と思い込んでいたら、実は居た」と言う意味合いで使われる。
一般的に、ブラックスワンは、「大きな災害が、滅多に起きないけど、『ガウス分布』で想定されるよりも大き確率である『べき乗分布』で起きる」と、リスクに備える意味合いで用いられる場合が多い。
ここでは、逆に良い意味で、「『基礎研究や革新的技術開発の成果』が巨大な価値を生む確率は、滅多に起きないけど、『べき乗分布』で起きる」と想定した。
もし、『基礎研究や革新的技術開発の成果』が巨大な価値を生む確率が『ガウス分布』なら、事実上起きないのに等しい。
しかし、『べき乗分布』なら、僅かだがあり得ない話ではなくなる。
そして、世界には、歴史的に、滅多にあるわけではないが、奇跡的に巨大な価値を生む『基礎研究や革新的技術開発』が存在する以上、それは、『奇跡ではなく、べき乗分布の確率で発生しているだけ』と考えた方が適切だと思ったわけだ。
「べき乗分布」が正しいと仮定した場合、「研究資金をどう配分すべきか」を数式とシミュレーションを用いて説明し、 「なぜ、べき乗なのに、ベル型だと勘違いするのか」、「べき乗分布」が正しい事をどう証明するか、「べき乗が正しい場合、研究や技術開発にどう言う姿勢で取り組むか」を順を追って説明する
目次
- 「選択と集中」が間違ったのは、ガウス分布(ベル型)してなかったから
- 「基礎研究や革新的技術開発」の成果の価値は、べき乗分布
- 確率論の復習
- ベル型(ガウス分布)とは
- べき乗分布とは
- 具体的に、「基礎研究や革新的技術開発」の成果の価値が、べき乗分布しているイメージ
- ベル型を信じている人に『ブラックスワン』はベル型に見えるか?
- 「ベル型信仰の人」には「ベル型」に見える
- 研究資金の正しい分配のやり方(ただし、べき乗分布が正しいなら)
- 「べき乗」で「予測不可能」なら、細かく分配した方が良い。
- 直感と合わないよ
- 証拠を集めよう
- 付録 : べき乗分布の場合のパラメータ推定
- 『正しい分配』を阻むもの
- 『正しい分配』を阻むもの 『非論理的な障害』
- どうすべきか
- 我々は、どうすべきか?
- 付録:シミュレーション